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マティアスの結婚

「そうですよ、兄上。これは僕らが生き残るための戦いなんですよ。どんな手を使ってもです」

 それまでマティアスとリカオンの話しを黙って聞いていた弟のルイスが会話に参加してきた。

 ルイスはがっしりとした木の机で、マティアスがやるべきはずの書類の山を片付けていた。マティアスは剣術は得意になったが、デスクワークはからきしだったので、いつも弟のルイスにやってもらうのだ。

 ルイスはまだあどけなさの残る可愛らしい顔を怒らせて言う。マティアスは弟の事が可愛くて可愛くて仕方がないので、ついついにやけた顔になる。

「そうは言ってもな、ルイス。一人の女性の人生を左右するんだぞ?霊獣の能力を手に入れたくて結婚だなんて」
「ならば兄上がその女性を生涯大切にすればいいだけの事です」
「!。そうか」

 マティアスが霊獣と契約した娘と結婚し、幸せにすればよいのだ。マティアスの気持ちが傾きかけた時、リカオンが口を挟んだ。

「そうだぞ、マティアス。それに霊獣と契約できる人間はとても心が綺麗だって言うじゃねぇか。女恐怖症のマティアスにピッタリだ。たとえブスでも大事にしてやれよ」

 これまでマティアスの周りにいた女性は暗殺者か、王子の地位によってくる性悪な女ばかりだった。そのためマティアスは女性に対して苦手意識ができてしまった。

 マティアスは姉であるヴィヴィアン以外の女性との関わりは皆無といって良かった。マティアスが霊獣の娘を大切にしようと決めても、その娘に好かれる事はできるだろうか。

 マティアスがさらなる心配に頭を悩ませていると、リカオンがニヤニヤ笑いながら言った。

「マティアス。いくら霊獣娘と結婚しても、手は出すなよ?俺たちは戦争に行くんだ。もし死んじまったら戦争未亡人になっちまうからな。まぁ、可愛かったら俺が嫁にもらってやるよ」
「何で俺が戦死してるのにリカオンが生きてんだよ!」

 マティアスとリカオンがくだらない口論を続けていると、ルイスが言った。

「安心してください。兄上とリカオンが戦死したら、僕がその方を妻に迎えます。国民はお涙ちょうだいの話しが大好きですからね」
「そうそう。ルイスは年上好きだもんな。ヴィヴィの事好きだし、」

 ルイスの言葉にリカオンがちゃちゃをいれる。ルイスは怒る事なく言葉を続ける。

「はい、僕はヴィヴィが大好きです。ヴィヴィが行き遅れたら僕の側妃にします」
「それヴィヴィに言うなよ?大暴れするからな」
「大丈夫ですよリカオン。ヴィヴィは僕には絶対怒りません。被害をこうむるのはリカオンと兄上ですから」
「お前なぁ。いい性格になったなぁ」

 マティアスはルイスとリカオンとのかけ合いをぼんやりと見ていた。そしてなし崩し的に霊獣と契約した娘に求婚する事になった。
 

 

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