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第6話  初めて戦ってみた


 突如《とつじょ》聞こえてきた、間の抜けた悲鳴。
 俺とソラは同時に駆け出し、声が聞こえてきた方へと走った。
 獣道から逸れて森へと入っていく。
 といっても、木々は黒く痩せ細ったものばかりなので、見通しは良い。
 灰と木の葉をざふざふと踏みしめながら歩を進めていると、不意にギャアギャアと不気味な鳴き声が聞こえてきた。
 それも一匹ではない。
 三匹、四匹……あるいはそれ以上いそうな、鳥らしき鳴き声。

「あ、あそこになにかうごいてるよ!」

 ソラが前方へ指をさす。
 黒い森を抜けると、少し開けた場所に出た。
 どうやら河原のようだ。
 といっても、のどかな清流ではない。
 向こう側には、赤黒いドロドロの濁流が河川を形作っている。
 その周辺に、巨大なカラスたちが群がってなにかをついばんでいた。

「ガア! ガアッ!」
「ひえーっ! やめてかぴー! ぼくのお尻を突っつかないでかぴー!!」
「ガアッ! ガアーッ!!」

 カラスたちの真ん中から、さっきと同じ間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ……? 誰か襲われてんのか? ……つってもアレ、明らかに人のシルエットじゃねぇよな」

 カラスの群れからチラチラと覗く被害者は、人の形をしていない。
 つーか多分めっちゃデカイ。
 カラスでさえ軽トラくらいの大きさがありそうなのに、突っつかれてるそいつはカラスと同等か一回りほど巨大だった。
 真っ黒なカラスとは対照的に小麦色の体毛に覆われている。

「ますたー! カラスさんにだれか襲われてるよ! 助けにいかないと!」
「…………しゃあねぇ。ここで見て見ぬふりして帰んのも後味悪ぃか」

 しばし葛藤の末、救出を選択。
 正直あんなのと関わりたくないんだが、このまま見捨てて返ったら心に引っ掛かりが残ってしまいそうだ。

「だが、俺は戦えんのか? たしか【MWO】だとスキルやら魔法やらがあったと思うが……」

 試しに、手のひらの上に火球をイメージしてみる。
 ボウッ! とサッカーボール大の炎の球体が出現した。

「なるほど。特に技名とか唱えなくても簡単な魔法なら問題なさそうだな」

 さっき自分のステータスを見た際、『魔力』の数値が一個飛び抜けて高かったからな。
 多少魔法を乱発しても問題ないだろう。

「ガガアッ!」

 思考を巡らせていると、カラスの一体が俺たちの方を向いた。

「やばっ! 見つかったか!?」
「ますたー! カラスさんがこっちに来るよ!?」

 俺たちを発見したカラスは、ガアガア! と盛大に鳴くと、羽ばたいて空へ飛び上がり、上空から襲いかかってきた。
 すると自動で鑑定が発動し、ステータス画面が表示される。

 ──────────────────────────────────────
 種族名:シャドウレイヴン
 レベル:51
 特徴:知能が高く、群れで行動する。一度標的として認識されると、どこまでも追いかけてくる。
 ──────────────────────────────────────

「シャドウレイヴン……! また面倒そうな特徴も持ってんな!」

 クソッ、今までゲーム内で冒険や戦闘をほとんどしてこなかったせいで、このカラスが【MWO】産の魔物なのかどうか分からねぇ!
 だが、最低限の敵の情報が得られたのはありがたい。
 敵ステータスの自動表示機能に感謝しつつ、俺は火球を投げつけた。

「ガギャア!」

 火球はカラスの顔面にクリティカルヒット。
 黒い体毛に炎が燃え移る。
 シャドウレイヴンは必死に羽で火を消そうとするが炎はどんどん燃え広がっていき、半ば火だるまの状態になりながら隣の赤黒い川にダイブした。
 ドボン! と、鈍い水しぶきがあがる。

「消火するために自ら川に飛び込んだのか? ……知能が高いってのは間違いないみたいだな」

 ひとまず川に落下にしたカラスは無視しておこう。
 まだ他にも仲間のカラス共が控えているからな。

 俺は炎を手から吹き出したまま、臨戦態勢で構える。
 すると、こちらの様子を窺っていたカラスの群れたちはバサバサとざわめき始めた。

「カガァ!?」
「ガァー、ガァー!」
「ガァーガガァァー!!」

 ひとしきりシャドウレイヴンたちは仲間内で揉めた後、バサバサーッ! と、一斉に羽ばたいた。
 同時攻撃が来るかと警戒したが、カラスたちはチラリと俺を一瞥するとそそくさと空を飛んで反対方向に帰っていってしまった。
 てっきりこれからガチの戦闘が始まると覚悟していた俺は、臨戦態勢のままぽつんと固まっていた。

 これは……勝利したってことでいいのか?

「ますたー! すごーい!!」
「どぅおわぁ!!?」

 俺がぽかんと立ち尽くしていると、隣で見ていたソラが満面の笑顔で抱きついてきた。
 だけどその勢いが強すぎて軽いタックルを食らったような感じになっている。
 俺は不意打ち抱きつきタックルを何とか受け止めると、お腹に顔を埋めていたソラがパッと花が咲くような笑顔で見上げてくれた。
 その無邪気な笑みに俺も思わず頬が緩む。

 ああ。これぞ、ザ・癒し、って感じだなぁ……!

「あ、あの! ぼくを助けてくれてありがとうかぴ! お兄さんはぼくの命の恩人かぴー!」

 ソラのハグを受け止めていると、後ろからやけに甲高い声が聞こえた。
 振り向いてみると、茶色い毛に覆われた大きな魔物――――カピバラに酷似した魔物が祈りのポーズでうるうると瞳を潤ませていた。


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