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第2話  ダンジョンコアを幼女にした


 ギルゴーズ率いるクリーチャー軍団を力任せに追放して、広々とした玉座の間に一人腰を下ろす。
 さっきまで大量の化け物たちが埋め尽くしていたから窮屈に感じたが、誰もいなくなると寂しさを覚えるくらいに巨大な空間だった。
 だが、今の俺に寂しさに浸っている余裕はない。

「まあ、状況からしてどこその異世界に転生しちまったってのは確定。恐らく転生先は毎晩癒しを求めてやり込んだ【MWO】のゲーム世界。そして肝心の俺の肉体は人間とはかけ離れたナニカ……どうすんだこれ?」

 ここがどこなのか、俺は何者なのか、そして『魔王』とは何なのか。
 分からないことが山積みである。
 クソッ、こんなことならあのギルゴーズとかいうモヒカンバーサーカーを置いておけば良かったな。
 さっきは半ば混乱していたとはいえ、全員追放は安直すぎたかもしれない。
 しかし、もう追放してしまったものは仕方ないので、頭を切り替える。

「つっても、まずは俺がどんな体に転生したのかだけは知りたいよなぁ。この空間には鏡っぽいものはないし。出でよ姿見~って唱えるだけで現れてくれたら楽なんだが、さすがにそう都合良くは――――」

 ――――ゴトンッ!!

 目の前の空間が黒く歪み、中から禍々しい装飾とオーラを放つ姿見が床に落ちた。
 俺はぱちくりと目を丸くする。
 
「……マジで出てきたの? え、どうやって??」
 
 まさか本当に出てくるとは思わず、呆気に取られる。
 だが、鏡を手に入れられたのはありがたい。
 恐る恐る姿見に近づいていくと、やがて自分の全身がありのままに映し出された。

「あー……やっぱ人間やめてんだなぁ俺。まあ色々と察してはいたんだが」

 鏡に映る灰色の肉体。
 全身は筋肉で満たされ、額から鋭角に飛び出した二本の真っ黒の角は凶悪な悪魔そのもの。
 顔つきも般若とゴーレムを掛け合わせたような恐ろしい風貌となっていて、一見しただけで、恐怖、破壊、滅亡をイメージさせる邪悪な威圧感をビリビリと感じる。

「つってもこれ、どうにかならんもんかね。もうちょいマシな人間っぽい見た目にさぁ」

 ぺちぺちと自分の肉体に触れながら、愚痴をこぼす。
 もしここが【MWO】の世界ならば、魔力という概念が存在するはず。
 この魔力があればお馴染みの魔法を発動させることができる。

 よくよく考えれば、この姿見を出現させたのだって、無意識に何かしらの魔法を発動したからだろう。
 ならば、もしかしたら今の俺なら『人化の術』みたいな魔法を使えるかもしれない。

「ものは試しだ! 俺の肉体よ、もっと普通の人間っぽい造形に生まれ変われ!!」

 瞬間、ピカー! と全身から光が発散する。
 ぐんぐんと筋肉が萎み、角が引っ込んでいき、背も縮んでいく。

 おお!
 こ、これはもしや……!

「おおおお!! すげぇ! 人間の見た目になってんじゃん!!」

 姿見に映ったのは、人間らしい見た目になった男の姿。
 顔も体も、さっきの邪悪な造形の面影はない。
 どちからかと言うと、特徴らしい特徴がないモブみたいなキャラクターになっていた。

 だが、これでいい!

「そうそう、こういうのでいいんだよ。人生何事も普通が一番! 俺は辺境の地で自給自足しながら精神的に豊かな暮らしを送る、充実したモブ人生を謳歌するぞ!」

 拳を突き上げてひとり奮起していると――ドクンッ! と心臓が脈打った。

 ――――――■■■■、■■■■?

 脳内に伝わってくる、認識できない言葉。
 右手で左胸を押さえる。

「な、なんだ? 今のは……」

 ――――――■■■■■■■!

 再び、ドクンッ! と心臓が跳ねた。
 さっきよりも脈動が強い。

 必死に俺を呼んでいるような、そんな感情がかすかに汲み取れた。
 なんなんだこれは。
 誰かが俺に干渉してきてるのか?

 キョロキョロと辺りを見回すと、俺の背後、巨大な玉座の最奥に、薄水色の球体が浮かんでいた。
 その球体の下には、漆黒の大理石で組み上げられた台座があり、荘厳な圧を感じる。

「……お前が、呼んでるのか?」

 ――――――■■■■! ■■■■、■■■!!

 明確な反応。
 一際《ひときわ》強く、心臓が脈打つ。

「これ……もしかしてダンジョンコアってやつか?」

【MWO】内には各地に『ダンジョン』と呼ばれる地下迷宮が存在し、中でも攻略困難なものは『大迷宮』と称されたりするらしい。
 らしい、と表現したのは、俺がそんな殺伐としたストーリーイベントは全部スキップしてきたので、詳しくは知らないからだ。
 ただ、ダンジョンや大迷宮の最深部には『ダンジョンコア』という核となる魔力供給源があるようだ。

「仮にこれがダンジョンコアだとして、どうする? 今の俺にはどうしようも……」

 ダンジョンコアの元まで歩み、至近距離から眺める。
 水晶のような美しい球体は、自分の存在をアピールするようにキラキラと光を乱反射させていた。

 ……いや、待てよ?

「もしかして、さっき自分の体を人間の姿に変化できたように、このダンジョンコアも人型にできたりするんじゃ……?」

 願望にも満ちた推測だが、試してみる価値はある。
 俺はダンジョンコアに手を差し向け、さっきの要領で人間の姿になるようイメージした。

「ダンジョンコアよ! 人の姿に生まれ変われッ!!」

 直後、パアアアァァァ! とダンジョンコアが内部から発光しだす。
 まばゆい光に包まれて、思わず目を背けた。

 が、数秒ほどで光は落ち着き、再びダンジョンコアに目を向けたと同時――――

「――――ますたぁーーー!!!!」

 ダンジョンコアが祀られていた大理石の台座。
 その上から豪快に俺の元へダイブしてきたのは、真っ白な素肌を露出させた――――《《全裸の長髪幼女》》だった。


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