プロローグ
プロローグ
「はああ~」
ある建物の前で、スーツ姿の若い女性がこれ以上ないほどの深いため息をついていた。
「ど、どうしよう……」
女性は頭を抱え、その場にうずくまる。冷たい風が吹き、ボロボロになった紙きれがその女性の顔にバサッと覆いかぶさる。
「むおっ! ……な、なによ、もう……って、これは……」
女性が手に取った紙にはこのような文言が書かれていた。
『船橋から世界へ! 千葉県3番目のジパングリーグクラブ誕生へ‼』
「! ……はあああ~」
女性は思わずそのPRチラシを破り捨てようとしたが、なんとか思いとどまった。しかし、ため息はまだ止まらない。女性が絞り出すような声で呟く。
「どうしてこうなっちゃったの……」
女性はポケットから自身の端末を取り出して、様々なニュースサイトなどを確認する。それらにはこのような文章が画面上で躍っていた。
『アウゲンブリック船橋、漂いまくる大暗雲……クラブ崩壊の危機⁉』
『補強の目玉、南米の大スター、デモス選手、薬物使用発覚で追放!』
『首脳陣にはびこる古い体質、パワハラ続出により、選手大量離脱!』
『フロントの複数人に横領発覚、会長と球団社長、管理職全員辞任!』
『世界的企業、SOSO、メインスポンサーからの緊急撤退を発表!』
「こんなことってある⁉ 泣きっ面に蜂過ぎるでしょ⁉」
女性は立ち上がって、声の限りに叫び、端末を思い切り地面に投げつける。
「はあ……はあ……いいや、七瀬(ななせ)ななみ、こんなことで挫けている場合ではないわよ」
自らをななみと呼んだ女性は首を振り、自らが投げた端末を拾う。そしてぶつぶつ呟く。
「まだこのサッカークラブが崩壊したわけではないのよ、諦めたらそこでなんとやら……」
ななみは端末を手際よく操作して、状況をあらためて確認する。
「とにかく、明日の記者会見、大々的に集めたメディアからの追求を上手く誤魔化すことが出来れば……クラブ存続の芽は残るわ……大丈夫よ、ななみ、貴女なら出来る……」
ななみは自分自身に言い聞かせるようにゆっくりと話す。しかし……。
「って、そんなん無理! 私はかよわい新人広報よ! 無理無理無理無理無理無理無理!」
「‼」
暗い空が光ったかと思うと、雷のようなものがクラブハウスに落ちる。ななみが慌てる。
「えっ⁉ ら、落雷⁉ か、