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第15話 初めての合成術

 11番通り。
 ほとんどが空き地だ。ジャッククラスの生徒が次々と空き地に入っていく。

「ふむ。この辺りかな」
「だな」

 空き地の前にはポツンとポストが立っており、ポストに住所が書いてあるからそれを見て自分の土地かどうか判断する。

「ここが俺の土地か。広いな……」

 平均的な一軒家を建てられる広さだ。敷地いっぱいに家を作ってしまうと1人暮らしにしては広すぎる家になるだろう。
 右隣はヴィヴィで、左隣はフラム。ヴィヴィのさらに向こうにアランがいる。
 木材、ガラス、それに石もあるな。あの石は風呂用かな? 石風呂を作れということか。他にも色んな資材が置いてある。
 資材の数はそう多くない。
 資材を全部使ってもこの敷地の半分ぐらいしか活かせないだろう。敷地を完全(フル)に活かしたいなら採取に出ろというわけか。

 まぁ、1人暮らしならこれぐらいの資材で十分だ。

 問題はどうやってこの資材たちに錬金術を施すかだ。1個ずつ窯に入れるわけでもないだろう。そもそも錬金窯がない。
 知り合い3人を見る。
 アランはメジャーで敷地の大きさを測っており、ヴィヴィはゴーグルを掛けてジッと資材を見つめブツブツと計算式のようなモノを呟いている。2人とも忙しそうだ。

 唯一、まだ作業を開始していないフラムに声を掛ける。

「なぁフラム。錬金窯がないけど、どうやって家を錬成するんだ? コレ」
「それはもちろん合成陣を使うんですよ」

 合成陣? 
 校長が俺を神殿に飛ばした時に使ってた変な図形か。

「そっか、イロハさんは錬金窯を使った錬金術しか知らないんですね」
「ああ。合成陣とやらを教えてくれると助かる」
「じゃあ! お手本、見せますっ!」

 フラムは自分の土地にポーチから出した筆で図形を描き始めた。頼られたことが嬉しいのか、ウキウキで作業している。
 大きな円、その中に六角形を描き、さらにその中に4つの小さな円を描く。円同士を線で繋いでひし形を作って完成。
 フラムは図形――合成陣の上に木材を一本置いた。フラムはマッチ棒を取り出し、ノーモーションで火を点ける。木箱に擦るとか、そういう動作無しで火を点けた。さらに驚くことに、そのマッチ棒から出る火は赤ではなく白だった。

「なんだそのマッチ棒。なんで炎が白いんだ?」

 そういえば駅にあった灯りも白い炎だったな。

「これは“マナスティック”です。マナを込めると火が点きます。この火は込めたマナを帯びた火、これを合成陣に投げ入れると――」

 フラムはマッチ棒を合成陣に投げる。

「うおっ!」

 まるで油の池に火を落としたように、一気に白い炎は合成陣に燃え広がり、木材が炎に包まれる。
 炎は一瞬で消え、木材があった場所には木馬が出来上がっていた。合成陣は消えている。

「これが合成術です」

 フラムは髪で隠れていない瞳、左の瞳で俺を見上げる。

「合成術? 錬金術とは違うのか?」
「説明が難しいですね……合成術はただ素材を作り替えるだけの術なのです。素材を一度分解して、組み合わせて、再構築して終わり」
「錬金術は違うのか?」
「錬金術は再構築した物体を最後マナで昇華させるのです。このマナによる昇華があるかどうかが錬金術であるかどうかの境界線ですね。合成術は最小限の道具で使用できる代わりに、マナによる昇華が行われないのです」
「へぇ~」
「合成術で作った物を合成物、錬金術で作った物を錬成物って呼びます」

 素材+イメージ+マナ=錬成物。これが錬金術の式だとしたら、
 素材+イメージ=合成物。これが合成術の式ってわけか。

「って、説明しておいてなんですが、中には例外もいましてですね……」

 なぜかフラムが恥ずかしそうに頬を掻く。

「ジブンの場合はなぜか、合成術でもマナによる昇華作用が働くのです……」
「それって、凄いことじゃないのか?」
「いやそれがですね、ジブンのマナは癖がありましてですね」

 その時だった。
 ゴォオン!! と爆発音がなり、フラムが合成して作った木馬が炸裂した。

「なっ……!?」
「ジブンが錬金術や合成術で作った物はなぜか全部爆弾になるんです……」

 なにその特殊能力……こわ。

「なのでイロハさん、合成術の使い方教えますので……イロハさんの家ができたらジブンの家も作ってくれませんか」

 なるほど。
 自分の力じゃどう足掻いても家ができないから、ここで立ち尽くしていたわけか。いや、家ができないという表現は誤りか。時限爆弾家はできるな……一応(それはそれで見てみたい気もする)。

「別にいいけど、上手くできなくても恨むなよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
「そんじゃま、ご教授願おうかね」

 ってなわけで、2人で俺の土地に移動する。
 まだ慣れてない段階でフラムの家を作るのは抵抗があるから、まずは俺の家からだ。

「最初はその辺の木材で、さっきわたしが作った木馬とまったく同じ形の物を作ってみてください」
「まずは図形……合成陣を描かないとな」

 俺は虹の筆を出す。

「あ、待ってください! 合成陣はマナの込められたインクで描かないといけないんです。わたしのマナインク貸します」
「それなら多分大丈夫だ。この筆に滲むインクはマナが込められている」

 まず見せられた通りの合成陣を描く。

「えっ」

 なぜかフラムは俺の描いた合成陣を見て驚いた。

「間違ってるか?」
「まさか! 上手すぎです……完璧な合成陣です」

 これでも画家の端くれなんでね。
 俺はオリジナリティという点で他の画家に劣るが、デッサン・模写に関しては誰にも負けない自信がある。……自慢じゃないがな。

「合成陣の上に木材を乗せて」

 木材を合成陣の上に乗せる。

「後は頭にイメージを作って、このマナスティックにマナを灯してください」

 マッチ棒……ではなく、マナスティックを受け取り、マナを灯す――灯す? どうやって灯すんだ?

「マナの灯し方わからないんだが」
「虹の筆にインクを滲ませるのと同じ感覚だと思います」
「ん、そういうことか。OK」

 虹の筆にインクを滲ませる時の感覚、脳から抽出したイメージを頭から胸に、胸から手に、手から筆に送り込む感じ。それと同じことをマナスティックに対してやる。

 ぼうっ! と、マナスティックに白い炎が灯った。

「後はこれを合成陣に投げ込めばいいんだな?」
「はい、そうです」

 合成陣にマナスティックを投げる。すると白い炎が合成陣に満ちて木材を包んだ。
 炎が消えると、木材のあった場所に翼付きの木馬ができていた。なるほどな。マナスティックはマナドラフトの代わりの役割か。

「ペガサスできてるじゃないですか!?」

 フラムは腰を抜かして驚いた。

「本当に初めてですか?」
「初めてだよ。イメージ力にはそれなりに自信があるんだ」
「センスつよつよですね……」

 これが合成術か。
 うん、使い勝手良いな。窯なしでこの芸当ができるのは使える。色んな場面で利用できそうだ。

「えーっと、そんじゃでっかい合成陣を描いて、その上に資材を集めて合成すりゃいいのか……待てよ、間取りとか全部考えて、トイレや風呂の構造とかも一気にイメージしてやらないと駄目か……きつくね?」
「さすがに一気に全部作るのは無茶ですよ。パーツごとに作っていきましょう」
「そっか。パーツを先に全部作って、最後にまとめて組み立ての合成術を使えばいけるか」

 バチィ!! と音がなり、俺の隣の土地――ヴィヴィの持つ土地が真っ白な炎に染まった。
 炎が消えるとあら不思議、綺麗な木造建築の一軒家ができましたとさ。
 無言でヴィヴィの建てた家を指さすと、フラムは苦笑いする。

「……中には例外もいましてですね……」
「それはさっきも聞いた」


 アレがとんでもない芸当だということは理解している。俺が真似しようとしたらトイレとか風呂、細部が変な形になること間違いなしだ。
 さすがのヴィヴィファンのフラムも、今のヴィヴィの錬成に対しては尊敬より畏怖が勝っているようだしな。新入生代表は伊達ではないらしい。

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