第13話 入学式
学校という名の城に着いた俺たちは先生の案内に従い、巨像が立ち並ぶ広間に連れてこられた。
生徒全員が適当に並べられたところで入学式は始まった。
仕切り役の先生が壇上に立ち、話を始める。
「進行を務めますはわたくし、副校長のレイン=シルヴィーです」
紺色の髪の、クールそうな女性だ。腰に剣を差していて、ちょっと刺々しい雰囲気がある。
彼女が姿を見せてからというもの、生徒がざわざわと騒ぎ出した。
「あれが剣聖レインか。魔剣“ティルヴィング”を錬成した鉱物学の天才」
「あの腰にある剣がティルヴィングかな?」
「純粋な戦闘力なら校長に匹敵するらしいぜ……」
「美人だな~! あの目に見下されたい!」
「俺も作りたいな……魔剣」
どうやら錬金術師の間では有名人みたいだ。
「さすがに教師の層は厚いね」
隣に立つアランが言う。
「そんな凄い人なのか?」
「剣術の天才でありながら鉱物学にも長けている化物だよ。ニコラス賞も1回受賞している」
またニコラス賞か。俺たちの世界で言うところのノーベル賞的な感じなのかな。
「それではまず、我が校の校長から挨拶があります。校長、よろしくお願いします」
「ひゃい!!」
間抜けな声と共に、あのカボチャ頭がぎこちない動きで登壇する。
……めちゃくちゃ緊張してるな。
「ほほほ本日はお日柄もよく、絶好の入学日和で……」
「校長、落ち着いてください。まずは自己紹介です」
「あ、ああ! そうだった! わ、吾輩はジャック・O・ニュートンである! ランティス錬金学校の校長である!」
その名を聞いた瞬間、また生徒が沸き始めた。
「錬金術師の到達点の一つ、宇宙を内包する大樹ユグドラシルを錬成したジャック・O・ニュートン!」
「噂じゃ何百年と生きてるらしいぜ……」
「本当に会えるとは……!!」
「アルケーがあるのはあの人のおかげだもんな」
さっきの比じゃない沸きようだ。
「アレが現錬金術師のトップか。噂通りのカボチャ頭だね。この学校が出来てからずっとあの人(?)が校長なんだよ」
こうしてアランが横で注釈してくれるおかげで何とか話についていけるぜ。
「カボチャ……かわいいですね……」
後ろでフラムが言う。かわいい? アレかわいいか? 女子の感覚はわからんな。
それから緊張止まない校長が定型文を読み上げ、校長挨拶は終わった。
校長に変わってレイン副校長が話を進める。
「続いて、新入生代表挨拶――ヴィヴィ=ロス=グランデ、ユリア=クリムドォーツ、シノ=ハリー、前へ」
聞き間違いかな。
俺の知っている人物の名がレイン副校長の口から出たのだが。
壇上に3人の少女が上がる。
1人はピンク髪の少女、お淑やかな雰囲気。お姫様って感じだ。黒のアイマスクで両目を隠していて、それが非常に目立っている。
1人は黒髪でギザ歯、目つきの悪い少女。こっちは一転、
そして最後の1人――残念ながら知っている顔だった。赤と青の髪の少女。そう、我らがヴィヴィ姫である。
「さすがヴィヴィさん……凄いです」
後ろからフラムのウットリ声が聞こえる。
アイツが急いでいたのはこれが原因か。打ち合わせとかあっただろうからな。
「本日、新入生160名全員が無事揃うことができたことを幸福に思うと同時に――」
まずピンク髪の少女が話し出し、ピンク髪の少女が話し終わると次に黒髪の少女が話し出した。3人それぞれ用意されたセリフを言っていくのだろう。
「つか、なんで代表が3人もいるんだ? 男女1人ずつとかならまだ納得できるけど、女子3人って……」
「代表には入試でトップだった人が選ばれる。これはあくまで僕の予想だけど、あの3人、筆記も実技も同じ点数だったんじゃないかな」
「そんなことありえるのか?」
「かなり稀だとは思うけど、ありえない話ではないでしょ。これも予想だけど、全員全試験で満点だったのかもね。トップで点数が揃うとなると、その可能性が高い」
入試を受けてないから入試の難易度は知らない。だから満点がどれくらい凄いことなのかはわからない。しかし俺たちの話を隣で聞いていた新入生がマジかよって顔をしているので、やばい所業なのは間違いない。
「私たち新入生一同は」
「人々の生活を豊かにする錬金道を歩み」
「精進することを誓います」
最後に3人それぞれ一節ごとセリフを口にし、代表挨拶は終わった。
入学式は滞りなく進み、締めくくりに入学式が終わったあとの日程についての話に入る。
「入学式が終わったら案内に従い、それぞれのクラスルームに向かってください。所属クラスはすでに生徒手帳に書いてあります」
生徒手帳の中を見る。
すると『ジャッククラス イロハ=シロガネ』と書いてあった。
俺とアラン、フラムは生徒手帳を見せ合う。
全員、ジャッククラスだった。