レティシアの告白
レティシアはそこでコトリと固まった。レティシアはマティアスを愛していた。未来の夢で一目見た時から。
それは未来を変えるべく兵士として従軍してからも変わらなかった。それどころか、マティアスへの想いは強くなる一方だった。
このままマティアスの手を取ってしまえばどうだろうか。レティシアはマティアスの妻になる。マティアスはザイン王国の国王となり、レティシアは王妃となる。
そこまで考えて思考が停止した。自分は王妃の器では決してない。レティシアは身を引くのが正しいのだ。
レティシアは乾いたくちびるをなめててから口を開いた。
「初めてお会いした時から、王子殿下をお慕いしておりました」
マティアスの顔が花が咲いたように笑顔になる。レティシアの胸がズキリと痛んだ。レティシアは胸の痛みに耐えつつ言葉を続ける。
「ですが、王子殿下のお気持ちに答える事はできません」
マティアスの顔が目に見えて青くなる。マティアスは震える声で理由をたずねてきた。レティシアは毅然とした声で答えた。
「王子殿下はこれからザイン王国の国王になられるお方です。王子殿下の奥方になられる方は王妃に相応しい方ではなければなりません」
マティアスはほうけたようにレティシアを見ていたが、笑顔になり答えた。
「何だレティシア。俺が国王になる事を心配していたのか?それなら心配無用だ。俺は国王にはならん。国王には弟のルイスがなる」
「ええっ?!」
「俺は剣を振りまして人を殺すのは得意だが、頭を使って国を治めるのは苦手だ。だからルイスに任せる。だからレティシアは安心して俺に嫁いでくればいい」
レティシアは口をパクパクさせていたが、キッとマティアスを睨んだ。
「それであっても王子殿下は王族です。ルイス第二王子殿下の兄君であらせられます。王族としての責務ははたさなければなりません」
「・・・。レティシアはルイスと同じ事を言う」
マティアスの寂しげな表情にレティシアの胸はさらに悲鳴をあげた。マティアスはレティシアに近づくと、レティシアを怖がらせないようにそっと手を取った。
「レティシア、一つだけ聞かせてくれ。もし俺が王子ではなく普通の平民で、そなたに恋をしたら、そなたは俺の心を受けいれてくれたか?」
マティアスの言葉に、レティシアの胸はグッと熱くなった。マティアスが普通の青年だったなら、レティシアは喜んで彼の妻になっただろう。
「はい、王子殿下。あなた様が何のしがらみのない普通のお方でしたら、わたくしは喜んであなた様の妻になります」
レティシアは喜びのあまり涙が溢れそうになった。それをグッと堪えて笑う。
もう充分だ。この気持ちだけを持ってチップと二人で生きていこう。
マティアスは苦笑してから自分のポケットをゴソゴソあさり、一つの指輪を取り出した。プラチナのリングに透き通ったルビーがはまっている。
「レティシア、ならばこれだけは受け取ってくれ」
マティアスはレティシアの手のひらに指輪を乗せた。
「とても綺麗。王子殿下、これは?」
「うむ、これは通信魔法具だ。もしレティシアと霊獣どのが困った事があれば、この指輪に声をかけてくれ。俺がすぐにかけつける。・・・。まぁ、困ってなくても声をかけてくれたら嬉しい」
「はい。ありがとうございます」
レティシアは指輪を左手の小指にはめた。マティアスは横目でそれを見て、くすりと笑った。