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第9話 東和共和国最大の『射爆場』

 東和陸軍裾野基地は東和でも最大級の『射爆場』を抱えていた。

『射爆場』とは爆撃や砲撃を行うための、一般銃器を扱う『射撃場』の規模をさらに拡大した規模の大型の施設だった。

 今回は誠の専用機持込での法術兵器の実験ということしか誠は知らされてはいなかった。司法局実働部隊隊長の嵯峨惟基特務大佐は元々諜報員上がりと言うこともあり、情報管理には非常に慎重を期すタイプの指揮官だと言われていた。これまでも何度か法術系のシステム調整の出張があったが、多くは実際に実験が始まるまで誠にはその内容が秘匿されることが普通になっていた。

 誠はそのまま仮眠施設のある別館へと向かう渡り廊下にたどり着いていた。正直、金に厳しい東和軍らしくかなり老朽化した建物に足を踏み入れるのは気の進む話ではなかった。

 東和陸軍は東和軍部の中でも冷遇されていた。

 東和宇宙軍が東和が関わるあらゆるここ遼州星系圏内の他国の紛争地に出かけて東和共和国への干渉を防いだり、戦線の拡大を阻止するために電子戦専用機を飛ばして妨害する『花形』なら、東和陸軍はそもそも戦争に巻き込まれる可能性の少ない東和共和国を自分の土地で守るだけの軍にとって『お荷物』と呼ばれるような存在だった。

 当然、国防予算のうち東和陸軍に割かれるそれは微々たるもので、正面装備と人件費でそのほとんどが消えてしまう。こう言った管理施設の修繕などは後回しも後回し、優先順位最下位の部類に入るところだった。

 そのままエアコンの修理もままならないらしく湿気のある空気がよどんで感じる基地付属の簡易宿泊所に足を踏み入れた。男子の入隊希望者のほとんどを東和宇宙軍に引き抜かれるので東和陸軍は女子隊員の入隊に力を入れていた。その為、別館の女子宿泊所はかなり設備も整っていると聞いているが、誠が今居る男性隊員用の宿泊所はいかにも手入れが行き届いていないのが良く分かる建物だった。

 廊下の電灯も半分以上は壊れていて薄暗い中を歩いていって手前から三つ目の部屋が空いているのを誠は見つけた。どうせ今の時間なら管理の担当職員も帰った後だろう。そう思ったので誠は管理部門への直通端末にデータを打ち込むこともせずにその部屋のドアを開いた。そして、そのまま安物のベッドに体を横たえた。予想通りベッドはかび臭く、これまで経験したことのない不快感に包まれながら眠ることに誠は不安を感じた。

「明日の実験は何をさせられるんだろうな……こんなベッドで寝るんだったら、寝袋でも用意してもらってテントを張ってその中で寝た方がマシなくらいだ」

 誠は染みだらけの施設の天井を見上げながらそんな独り言を言っていた。この明らかに人に優しくない宿泊施設に放り込まれた今の自分の境遇はまさに『実験動物』と言った風情があった。


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