第8話 『もんじゃ焼き製造マシン』は寝ることで車酔いから脱出した
「神前!神前!オメーは一度寝ると本当に中々起きねーんだな。着いたぞ」
クバルカ・ラン中佐のかわいらしい声で誠は目を覚ました。東和陸軍裾野基地。寝ぼけた目をこすりながらランの車から降りると、誠はのんびりと伸びをした。辺りは秋のつるべ落としの太陽のせいですっかり暗くなっていた。
ここで誠は有る事実に気付いた。
誠の乗り物酔いは『もんじゃ焼き製造マシン』との異名を持つほどの酷いものだった。バスに乗れば吐く、乗用車に乗れば吐く、電車に乗っても吐く。それの体質ゆえに誠は旅行と言うものをしたことが無い。それが仕事であるはずのシュツルム・パンツァーのコックピットに乗るだけでも吐いていた。
そんな誠が今、全く吐き気を感じていない。酔い止めの薬を飲んでいたとしても、それだけが原因とは考えられない。誠はその事実を喜ぶべきなのかどうか迷いながらランを見つめていた。
「さあ、行くぞ。ここが東和陸軍シュツルム・パンツァー教導隊も併設してあるアタシの古巣だ。それにしても……いつもはアタシの車を降りる時は吐きそうな顔しているはずなのに……今日は体調が良―のか?それとも野球で負けてやけになってるのか?」
ランは機嫌が良さそうな調子で誠に尋ねてきた。
「ええ、まあ。あれだけシミュレータに乗ればさすがの僕の胃袋も慣れて来るってことですかね?そうだと嬉しいんですけど」
いつにもない快調な胃腸に誠は思わずそう返していた。
「そーか。アタシもオメーをぶっ叩いて鍛えた甲斐が有るってもんだ。じゃあ、これからの訓練はもっとハードにしごくことにしよう。あと胃袋の方もこれからもその調子で頼むわ」
そんなランの言葉にもう一度意識をはっきりとさせて周りを見渡す。周りに茂る木々のシルエット。停まっている車の数も少ない。そのまま東和陸軍射爆場本部の建物に誠とランは吸い込まれていった。
建て付けの悪いガラス戸を開いて入った廊下には、夕方の訓練を終えて着替えを済ませたばかりというような東和陸軍の兵士達がたむろしていた。自動販売機の前で四、五人の兵士達の視線が二人を見つける。突然来訪したランと誠だが、東都陸軍とは色違いなものの作りの似た司法局実働部隊の制服を見て、彼等はすぐに関心を失って雑談を再開した。
「とりあえず今夜中に豊川の基地からオメーの
そう言うとランはそのまま雑談する陸軍の兵士達を横目に見ながら隣にあるエレベータに乗り込んだ。誠はそのまま周りを眺める。ここは何度か東和宇宙軍幹部候補生養成課程で来たことのあるこの建物だった。構造は分かっているのでそのままロビーを抜け狭い廊下に入った。