第7話 『法術兵器』の実験
「今回の仕事も遼州同盟司法局が開発している法術兵器の実験っていうことで良いんですよね?」
気持ちを切り替えようと仕事の話を持ちかける誠だが、ランの目には余りに落ち込んでいるように見えるらしく目を合わせてくれない。黙ってドアの鍵を開く。沈黙の中、二人はランのセダンに乗り込んだ。
「無理はすんな。なんなら眠ったほうがいいかもしれねーな。とりあえずオメーの健康が今回の実験のカギだ。そのためにこうして実験に先立って東和陸軍射爆場に前乗りするんだから。ほら、酔い止めだ。吐くんじゃねーぞ」
ランは誠に錠剤を渡した後、空気を換えようと少し窓を開ける。秋の風が車の中を吹き抜けた。
「どうせ裾野の東和陸軍射爆場に着くには時間がある。十分休んでろ」
そう言うとランは車を後退させて駐車場を出た。
豊川の町は相変わらずの喧騒に包まれていた。誠が部隊に配属されてもう三か月が過ぎようとしていた。
初めて『特殊な部隊』の隊員で出会ったのがランだった。その時にこの部隊の異常性に気付いてはいたが、三か月も経つとそれが普通の日常となっていた。
今日も整備班の人型機動兵器『シュツルム・パンツァー』の定期メンテナンスの為に抜けられない整備班の野球部員以外は全員が有給か代休を取ってこの試合に参加していた。こんなことは普通の公務員ならあまり許されるものでは無いのだが、ここは『特殊な部隊』なので、他の部隊の隊員に出会ったときに白い目で見られるくらいで、それが当たり前の日常だった。
「実験、上手くいきますかね」
それとなく誠はいつものようにカーナビの代わりに付けているテレビで将棋中継を見ているランに尋ねた。
「それはオメー次第だ。だからこうして前乗りするんだ。アタシからはそれしか言えねー」
相変わらず舌っ足らずの口調でランはそう言って運転を続けた。車はただ西に向かう高速道路に向うロータリーを緩やかに加速しながら走っていた。
誠はランの好意に甘えるようにいつもの車酔い止めの錠剤を呑むと目をつぶった。そしてそのままこみ上げる睡魔に飲み込まれるようにして眠りに落ちて行った。