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第6話 草野球場から仕事場へ

 そんな誠の背後に人の気配がした。誰かが自分を慰めに来たのだろうと、声をかけてくれるのを待っていた誠だが、その人物は誠の背後に立ったまま黙っていた。

 しばらくして誠は感じた気配からしてその人物がやけに小柄な人物であることに気付いた。その人物はしばらく黙り込んで落ち込む誠を見つめていたあと、ようやっと口を開いた。

「おい、落ち込んでいるところすまねーが……出かけんぞ。仕事だ」 

 振り向いた誠の目に飛び込んできた八歳児くらいの幼女にしか見えない『特殊な部隊』の夏服を着た人物は、部隊の勤務服姿の司法局実働部隊機動部隊長、クバルカ・ラン中佐だった。

「そうでした……って以前言っていた実験は明日じゃないんですか?」

 誠は仕事の予定を自分が勘違いしていたのかと錯覚してそう言った。

「実験自体は明日だが、オメーは車に酔うじゃねーか。だから、今日のうちに実験場まで移動するんだ。いつもそうだが法術兵器の実験は被験者の健康に成否がかかってるんだ。早く着替えてこい!」

 誠は彼女の言葉を聞くと頷いて静かにロッカールームに向かった。その後ろをかわいらしい三つ編みが特徴のランがちまちまと付いてくる。

「アタシは野球は分からないからなんとも言えねーけど……さっきのは打球の飛んだところが悪かっただけだと思うぞ……ミスは誰にでもあるもんだ……アタシだってミスる時くらいある。気にするんじゃねーぞ。仕事に差し支えるといけねー」 

 そう言いながらランは指で車のキーを回している。

「そうなんですけどね。野球ってそう言うゲームですから。それにあれは完全に僕の配球ミスです。あんなところに投げたらどんなバッターでもヒットを打ちますよ」 

 誠はそう言うとロッカールームに入った。

 ロッカールーム。ユニフォームを脱ぎ、汗に濡れた下着も用意したものと替えて誠は淡い青色が基調の司法局の勤務服に着替えた。見るからに落ち込んでいる誠にそれ以上はランも何も言えなかった。誠はそのまま着替えを済ませるとベンチから様子を見に来た西に荷物を渡した。

「大丈夫ですか?神前曹長。さっき言ったようにこの試合は神前曹長のせいで負けるんじゃないんですから。神前曹長は勝ってるんですから」 

 気配りの人と呼ばれる西の手で荷物が運ばれてくる。まるで去るのを強制するかのような西の気遣いが逆に誠を傷つけた。

「じゃあ行こうか。オメーもゆっくり走った方が車に酔わねーだろ」 

 腫れ物にでも触れるようなランの態度に誠は少しばかり傷ついていた。なんとも複雑な表情のまま誠は球場の通路に出る。先を急ぐランに誠は付いていくだけ。外に出ればまだ秋の日差しはさんさんと照りつけてきた。歓声が上がる豊川市スポーツセンターを後に誠はランの車が止めてある駐車場に向かった。

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