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第34話

「レイヴン」驚いたことに、助言を与えてくれたのはオリュクスだった。「罠のこと、訊いてみたら?」
「え」レイヴンは視界に稲妻が走るような錯覚に陥った。「罠──」
「罠?」
「罠って?」コスやキオスも、レイヴンと同じ稲妻を感じたかどうかはともかく、同じ言葉を発した。「どういうこと?」
「レイヴンは罠にかかったんだって」オリュクスが元気よく説明する。「カニクイアザラシが言ってた」
「ええっ」コスが叫び、
「レイヴンが? ──あ」キオスが何かに気づいたような表情になった。「まさか」
「ん?」レイヴンは自分の混乱はさておき保護対象の動物の様子の変化には直ちに反応した。「どうしたんだい? キオス」
「あの声のことじゃ、ないのかな」キオスは遠く離れたアフリカ大陸の方を見ている雰囲気を醸し出しながら言った。「ほら、ぼくはまだここにいるよって、突然聞こえた声」
「あ──」レイヴンは自分の殻にかかる重力が突然増大したような錯覚に捕らわれた。
 自分を呼んだ、声。
 助けを求めてきた、声。
 見つけて欲しいと訴えてきた、声。
 マルティコラスとともにいると告げた、声。
 あれが──罠?
「そんな」コスが怖ろし気に震えた声で言う。「いったい、誰が──」
 皆、一瞬黙った。しかし、思う答えは恐らく同じだ。
 双葉──タイム・クルセイダーズだ。
「我々が掴んだ最新の情報を、今!」アデリーペンギンの一羽が叫ぶ。「君たちに教えよう!」
「──」レイヴンは茫然としながらも、そのペンギンの許へ近づいていった。
 そう、とにかく最新の情報を聞こう。何をするべきか判断するのは、それからだ。
「双葉、つまりタイム・クルセイダーズは!」アデリーペンギンはレイヴンに向かって翼を大きく広げたり閉じたりしながら伝えた。「ある動物の体を、再構築したらしい!」
「再構築?」復唱しながらレイヴンは考えを巡らせた。再び構築するとは、つまり──
「恐らく彼奴等は、さらった動物たちを細かく分解して運んでいるものと思われる!」アデリーペンギンはどうやら、レイヴンが考えているのと大体同じようなことを伝えてこようとしているようだった。「なので、今回それを逆に辿り、一回分解した動物を再び元の姿に戻したのだと思われる!」
「──何の動物を?」質問しながらレイヴンは自分の心がぞっとするのを感知した。
 タイム・クルセイダーズ。
 双葉。
 コードルルー。
 彼奴ら。
 ああ、まさか。
 信じられない。
 信じたくはない。
 だが、あの者どもは──
「何の動物かまでは、わからん!」
 アデリーペンギンの声が、ひどく遠いところから聞こえてくるようだ。
「しかし彼奴らは、その再構築した動物でもって、レイヴンを罠に嵌めた! つまり彼奴らが再構築したのは、レイヴンのよく知るところの動物であると思われる!」
「うん」レイヴンは頷いた。何故なのか、泣きそうな気持ちがたちまちのうちに沸き起こってきた。
 だが泣いている場合ではない。
「まさか、レイヴン」キオスは素直に声を震わせ、すでに泣き出しているようだった。「それって、マルティのことなのかな」
「あいつら」コスは同じ震え声でも、怒りに衝き動かされる雰囲気だ。「マルティを再構築したっていうのか」
「それってつまり」オリュクスまでもが、珍しくにこりともしない声で自分の考えたことを述べた。「マルティを、一回捕まえて、分解したってことか」
「ありがとう」レイヴンは冷静な声でアデリーペンギンに告げた。「とても重要な情報を教えてくれて。君たちの連携の素早さと行動の俊敏さに、心から敬服するよ」
「うむ!」
「役に立てたのなら、喜ばしい!」アデリーペンギンたちも満足げに頷く。
「ところで君たちは」レイヴンは質問した。
 彼の思い付いた質問は、もはや罠のことでもなければ、マルティコラスのことでもなく、ましてや自分のことを仲間と見做しているのか敵と見做しているのかというようなことでもなかった。
 そういう些末なことも、確かに知っておきたい情報ではあるのだが、それよりも何よりも、レイヴンは今、ただ一つ、この質問を彼らに投げかけたかった。
 彼らとはつまり、地球に住む動物たちに対してだ。
「君たちは」レイヴンは問うた。「どうやって、タイム・クルセイダーズと闘うつもりなんだい?」

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