第4話 ピッチャー交代
肩の違和感に投球の限界を感じた誠がベンチを見ると、そこではかなめが手を上げて主審を呼んでいるのが見えた。ピッチャー交代を告げるかなめを見て、誠はただ自分のふがいなさに苦笑いを浮かべるしかなかった。
ショートを守っていたエメラルドグリーンのポニーテールの女性、誠の所属する機動部隊第一小隊小隊長、カウラ・ベルガー大尉がすぐに呼び出されてマウンドに向かった。
誠はそのまま歩み寄ってきたキャッチャーの先輩の大野からボールを渡された。
「すまないな。俺のせいだ。投げたかったんだろ?フォーク。オメエの顔見りゃすぐにわかる。それに、何度も俺がオメエの足を引っ張った。悪かった」
パスボールで二塁ランナーを三塁に進めてピンチを広げた大野はそう言って、すでに限界に達している誠の左肩を叩いた。
「大野っちのせいじゃないよ。私も三回もエラーしたしエラーは野球につきものだもの。でも、誠ちゃん。久しぶりの投球としては良く投げたと思うよ。頑張った、偉い、偉い」
セカンドの運用艦『ふさ』の火器管制官のサラ・グリファン中尉が苦笑いを浮かべながら首を振った。
「それに公式戦初登場で千要マート相手に5失点で行ければ御の字よ。だって連中のクリーンナップは野球で大学入ったんでしょ?それってほとんどプロに近いってことよね。神前君の肩が壊れて無ければいい勝負できたでしょうけど……一応、あちらさんの方がチーム力全体が格上だし……まあ、この回のピンチは確かにアメリアの悪送球がきっかけで始まったピンチだけどね……」
サラは時々スパープレーを見せるもののなんでもないゴロをファーストの方を向かずに雑に悪送球したアメリアに全責任を押し付けた。
「何よ!これは全部私のせい?あれくらいの球を取れないファーストのパーラが悪いんじゃないの……タイミング的には取ればアウトよ。パーラったらたまに試合に出てみればいつもこんな感じ。3回だってあそこは外野に打球が飛べば一点って時にキャッチャーフライを打ち上げて……。前の回にも送りバントを失敗してる。本当にパーラにはツキが無いのね」
自分の雑なプレーの言い訳の生贄としてこの『特殊な部隊』唯一の常識人であるパーラ・ラビロフ大尉をアメリアは選んだ。
「もう何とでも言って……こんな風にアメリアのいたずらの尻拭いされるのはいつもの事だから。もう疲れたわ。全部私が悪いことになれば神前君は救われるんでしょ?
ほとんど八つ当たりに近いアメリアの言葉にパーラはいつものように諦めた表情を浮かべていた。
サラ、アメリア、パーラの内野の三人の言い争いに誠は呆れながらマウンドを後にした。
「神前。お前はよくやった。あとは任せろ」
マウンドに登ったカウラはそう言うと誠からボールを受け取った。
投球練習を始めたカウラを背に、誠は力なく豊川市営球場・第二グラウンドの仮設のダグアウトに向かった。ダグアウトの上で試合の応援に来ていた管理部のパートのおばちゃんの子供達も応援の声を発するのをやめて、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「誠お兄ちゃん頑張ったね!」
「次は勝てるよね!」
少年達の声が誠の高校時代のトラウマを思い出させて心の傷に染みるのを感じながら誠は彼等に笑顔で手を振った。
「高校時代もあの試合だけ全校応援だったよな……僕って応援されると駄目なのかな」
自分でも照れ屋の自覚のある誠はそう言いながらグラウンドを歩いてダグアウトに向った。