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竜魔法習得の可能性

「ここには、魔力を増幅させる方法について記されていて……」
「なるほど……」

 お城の書庫で竜魔法の本を見つけてから、今日で二週間。
 あれから僕は、メルさんにお願いして文字と竜魔法について教わっている。

 ありがたいことに、文字についてはメルさんが翻訳して丁寧に教えてくれるから、簡単な単語……日常会話程度なら理解できるようになったよ。

 それに、竜魔法についても色々と分かった。
 やはり竜が使うだけあってどれも考えられないような素晴らしい魔法ばかりで、もし身に着けることができたら、きっと色々と役立つことができると思うんだ。

 だけど。

「ギルくんがニンゲンだからということもありますが、いずれにしましても、ギルくんにはまず魔法の基礎を学ぶべきかと」
「ですよねー……」

 人間が使う魔法については、残念ながら皇宮の書庫に入門書のようなものがなかったため、最初から身に着けていた回復魔法以外は一切使えない。
 ここの書庫にある本は、全て竜が読むことを前提にした竜のためのもの。人間の魔法に関するものは、生憎見つからなかった……って。

「心配いりませんよ。魔法の使い方自体は、竜もニンゲンも変わらないはずです。……多分」
「そ、そうですよね……」

 僕の手を握りしめ、メルさんが微笑みながら励ましてくれた。
 でも、言葉の最後に保険をかけているところからも、そんなことはないんだろうなあ。

「だ、大丈夫です! ギルくんはとてもすごい回復魔法が使えるんですから、コツさえつかめば、ニンゲンの魔法であればすぐにでも使えますよ! ということで」
「わわわ!?」

 何故か僕は、メルさんに後ろから抱きしめられてしまった。

「メ、メルさん!?」
「じっとしていてください」

 メルさんに言われるがまま、僕は大人しくする。
 彼女から漂ういい匂いで思わずくらくらしちゃうけど、が、我慢しなきゃ……。

 すると。

「あ……」

 何ていうのかな。背中からぽかぽかしたものが流れ込んできて、それが身体の中を駆け巡っているような、そんな感覚。
 これって、回復魔法を使った時と同じ? ……ううん、ちょっと違う。

 回復魔法の時は身体を包み込むような感じだけど、これはまるで、僕という暖炉に火をくべているみたい。

「今、ギルくんの身体に、火属性魔法を使う時の魔力を流し込んでみました。どうでしたか?」
「は、はい。まるで僕の身体に火が灯ったみたいな感じでした」
「ふふ、上手くいったみたいでよかったです」

 やっぱりあれは、メルさんの魔力だったんだ。
 火属性魔法を使うと、魔力もあんな感覚になるんだね……って。

「と、ということは、属性ごとに魔力が違うってことですか?」
「正確には、それぞれの属性に合わせて自分の魔力を変質させるということですね。いずれにしても、ほんの僅かとはいえ竜である私の魔力を流しても、ギルくんに問題はなかったみたいでよかったです」

 そう言うと、メルさんはほっと胸を撫で下ろす。

 なるほど……人間と竜じゃ、基本的に魔力の種類や質なんかも違うんだろうな。
 竜魔法を人間が使うことができないのも、そもそも魔力が違えば無理に決まってるってことかも…………………………あれ?

「でも僕、メルさんの魔力を普通に受け入れることができました。それって、僕は竜の魔力に適正があるってことなんじゃ……」
「っ!?」

 僕の言葉に、メルさんは目を見開いたかと思うと。

「わ、私も属性を変えた魔力を感じてもらおうと、特に考えもなく魔力を流してみましたが……よくよく考えれば、私ったらなんて考えなしなことを……っ」

 心から後悔と反省をするように頭を抱えてしまった。
 ひょ、ひょっとして、竜の魔力を人間に流し込んだら駄目だったのかな……。

「本当に申し訳ありません……こんな危険なことは、もう二度としません……っ!?」
「メルさん、謝らないでください」

 僕はメルさんを抱きしめ、できる限り優しい声でささやく。
 彼女は他の人達にはとても苛烈だけど、僕のことはとても大切にしてくれる。それこそ、すぐに壊れてしまう宝物を扱うみたいに。

 だからこそ、僕はこんなことくらいで負い目を感じてほしくない。
 僕には回復魔法だってあるし、簡単に壊れたりはしないんだから。

 何より、|僕のせいで《・・・・・》ほんのちょっとでもメルさんにつらい思いをしてほしくない。

「むしろメルさんのおかげで、僕は可能性を見つけました。人間でありながら、竜魔法を使うという可能性を」

 そう……メルさんの魔力が流れ込んできても、僕の身体におかしなところはない。
 むしろ魔力の流れや質、そういったものを手に取るように感じることができたんだ。

 つまりそれって、僕に竜の魔力を扱う素養があるってことだと思う。

「だから僕、すっごくやる気が出ました! 竜魔法が使えるかもしれないなんて、そう考えるだけで興奮しちゃいます! メルさん、ありがとうございます!」
「ギルくん……」

 メルさんの真紅の瞳を見つめ、僕は精一杯の笑顔を向けて感謝の言葉を告げた。

「……ギルくんがいけないんです」
「え……?」
「ギルくんがとってもいい子で優しくて、私のことを大切にしてくれるからいけないんですから!」
「わわわわわわわわ!?」

 ものすごく興奮したメルさんが、僕を思いっきり抱きしめる。
 こ、これは、|いつもの《・・・・》暴走が出てしまったんじゃ!?

「メ、メルさん落ちついて!」
「いいえ。もう今日はずっとこうやって、ぎゅーってするんですから! もちろん食事の時も眠る時もです!」

 結局メルさんの宣言どおり、僕は一日中抱きしめられたまま過ごしたよ。

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