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青い竜に挑む

『ちっ……やっぱり俺が出張らねえと駄目かよ』

 これまで指示を出すだけで傍観し続けていたライナーが、大剣でコンラートさんに斬りかかった。
 ただしその一撃は防がれ、ライナーはすぐさま距離を取った。

『……急に戦闘に参加するとは、どういう風の吹き回しじゃ?』
『べっつに。ただ、|癪《しゃく》だがそのガキの言うとおり、このまま指を|咥《くわ》えていてもどうしようもねえんでな』

 コンラートさんの問いかけに、ライナーは唾を吐き捨てて答える。
 でも……ようやくこの男が、誘いに乗ってきた。

「コンラートさん! エルザさん!」
『おう! 任せい!』
『この男を止めれば、他の竜達は所詮雑兵。そうなれば、我々の勝利です』

 そうだ。この場で竜達を掌握しているのはライナー。この男さえ倒せば、全て上手くいくはず。
 ただし、油断はできない。きっとこの男のことだから、まだ何か策を隠し持っているかもしれないから。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!』
『甘えッッッ!』

 咆哮を上げてグレイブを振り下すコンラートさん。それをライナーは、簡単にいなした。
 やっぱりこの男、他の竜よりも実力が二つ三つ飛び抜けている。

『はっは! やるのう! なら……これでどうじゃ!』

 コンラートさんは不敵な笑みを浮かべ、次々と息も吐かせぬ連撃を放つ。
 それでもライナーはそれらを弾き、|躱《かわ》す。

『獲った』
『なめんなよ!』

 隙を突いて背後に回っていたエルザさんがククリナイフを突き下ろすけど、ライナーがグレイブを弾いた反動を利用して翻り、逆に大剣を横薙ぎに振るった。
 |堪《たま》らずエルザさんは後方へと飛びのく。

『何をしてやがる! てめえ等も加勢しやがれ!』
『『『『『は……はっ!』』』』』

 それまで呆けて三人の戦いを見つめていた竜達が我に返り、コンラートさんとエルザさんに襲いかかる。

(せっかく|躊躇《ちゅうちょ》してくれていたのに、息を吹き返しちゃった……)

 コンラートさんを恐れていた竜達の表情を見る限り、士気が復活したとみて間違いないと思う。
 それもこれもライナーが自ら戦いに参加し、二対一だというのに互角以上の強さを見せたからだ。

 本当に、機を見るのが上手い。

『おら! 俺がケツ持ってやるから、どんどん行けや!』
『むう……!』

 竜達による波状攻撃を受け止め、コンラートさんが|唸《うな》る。
 開戦当初は一斉に襲ってきたものの、竜達の統制もそこまで取れておらず、途中からはコンラートさんの強さに恐れをなし弱腰だった。

 だけど今は士気も高く、攻撃の切れ目もない。
 これではさすがのコンラートさんでも、そう簡単に突き崩すのは難しいと思う。

 エルザさんにしても、毒を持つという能力とその素早さで戦いを優位に進めてはいるものの、見る限り多人数を相手にするのはそこまで得意なように見えない。
 数で押し込まれてしまったら、上手く立ち回ることも容易じゃなくなる。

(まずい……)

 何より一番危惧するのは、ライナーに余裕が生まれてしまったということ。
 あの男に自由を与えたら、最悪『王選』に介入してくるかもしれない。

 まだ僕達の知らないような、メルさんを倒すための武器を隠し持っていてもおかしくないんだ。

 なら。

「エルザさん! こちらへ!」
『っ! 分かりました!』

 目の前の竜を蹴り、追いすがる竜を引き離してエルザさんはコンラートさんの背後に回る。

『ギルベルト様』
「すみませんが、僕をあなたの背中に乗せてください!」
『っ!? なんじゃと!?』

 竜を弾き飛ばしながら、コンラートさんが驚きの声を上げた。

『心配せんでもわしがギル坊を守る!』
「もちろんそれは分かっています! ……でも、それじゃあの男の好きにさせてしまう」

 今も竜達に指示を出しつつ、メルさんとクラウスの様子を|窺《うかが》っているライナーを見やり、僕は告げる。
 そう……何としてでも、僕達はあの男をこちらの戦いに引きずり込まないといけないんだ。

「そういうことですから、僕はエルザさんと行きます。クラウスが僕の殺害を重要視している以上、目の前にいる僕を見逃すことなんてできないはずですから」
『コンラート様、どうかギルベルト様を私にお預けください。この身に変えても、ギルベルト様をお守りいたします』
『むう……分かったわい』

 エルザさんが僕の意見に賛同してくれたこともあり、コンラートさんは|唸《うな》り声を上げつつも渋々頷いてくれた。
 彼女の俊敏さがあれば、ライナーに肉薄して逃がさないようにすることができるはず。

 何よりそれだけの距離なら、さっきみたいな謎の武器を使う隙を与えないで済む。

 あとは。

「コンラートさんにも、無理を強いることになってしまいますけど……」
『任せよ! 他の竜どもには、ギル坊とエルザの邪魔をさせたりはせぬ!』

 拳で胸を強く叩き、コンラートさんは頷く。
 さあ……いよいよ大詰めだ。

「エルザさん……あなたが頼りです」
『お任せください。この命に代えても、役目を果たし……』
「まさか。僕があなたを、死なせるはずがないじゃないですか」

 まだ底が見えない、ライナーの実力。
 ひょっとしたらエルザさんでは敵わないかもしれないけど、それでも、僕のちっぽけな回復魔法で守り抜き、その牙を届かせてみせる。

『……はい。どうかこのエルザめを、お守りください』
「はい!」
『ギル坊! エルザ! 行けえええええええええええッッッ!』

 コンラートさんが目の前の竜達を斬り伏せて道を作る。
 僕とエルザさんは、彼の背後から一気に飛び出し、竜達の一番奥にいるライナーへ向け空を駆けた。

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