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クロエは最後、もう会えないであろう最愛の夫の頬に触れ、言った。
"愛してるわ。永遠に。娘たちの事、お願いね"
そして、神々しい光に包まれ天へと昇って行く。夫のダンは泣きながらも笑顔は絶やさず、姿が消える最後の瞬間まで、妻から目を離さなかった。
「うっ・・・ぅう・・・ぐっ・・・」
シュシュッと高速で箱から抜いたティッシュが目の前に差し出された。黒く鋭いクチバシからそれを抜き取り、涙を拭いた。
「その前に鼻水を拭いたら?口に入ってるわよ」
もはや涙なのか鼻水なのかわからない。わたしの目から下は化粧水が要らないほど潤っている。
「はぁ〜・・・泣きすぎた。目痛い」
「どこに泣く要素があったのか、わたしにはわからないわ」
「えええ!?なんでですか!最初から観てたのに?」
「あなた、最後に妻が消滅するところで号泣していたけど、なぜ?」
「消滅って・・・最後の別れだからですよ!もう2度と会えないから・・・」
「元々奥さんは亡くなっているじゃない」
「そぉ・・・ですけど!やっと奥さんの存在に気づいて、最後に姿が見えたんですから」
「そもそも、最後だけ見えるようになるのもわからないわ。だったら最初から見えるほうが最後の別れも感動が倍増するじゃない」
「・・・最初は奥さんが見えなくて、周りで起こる不可解な出来事によって徐々に亡くなった奥さんの存在に気づいていくのが良いんです」
「だとしても、最後に奥さんが見えたのは突然だったじゃない。理由もなく突然姿が見えることに違和感はないの?」
──珍しく、一緒に映画を観るというから女子会のようにワクワクしていたけど、空舞さんは一緒に観てはイケナイ烏(ヒト)だった。
「それが映画なんですぅ。ありえない事が起きるから楽しいんですぅ」
「それを言うなら、現実のあなたもそうじゃない。普通の人間にわたしは見えないよの」
「・・・現実は、楽しくない・・・いやっ!空舞さんと話せるのは嬉しいけどっ、そーじゃないのもいっぱいいるし・・・」
「見えないほうがよかった?」
以前のわたしなら、即肯定していただろう。でも今は、そうとも言い切れない。見えなければ、早坂さん達に会う事もなかっただろうし──「空舞さんの話せないのはイヤです」