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「ちょっ、泣いてんの?やめてよこんな所で、あたしが泣かせたみたいじゃない」

込み上げてくる涙を抑えることが出来ない。
なんでこの女は、いとも簡単にわたしの言う事を信じるんだろう。いや、本当は理解に苦しんでいるのかもしれない。それで当然だ。
でも、わたしが言ったという理由だけで、それだけで、こんなにもすんなりと受け入れてくれるんだ。

「ヒック・・・ヒッ・・・」

「その酔っ払ってんのか泣いてんのかわかんないのやめてくれる」

「・・・泣いてる」

「じゃあ一刻も早くやめてくれる。イロイロ聞きたい事あんだけど」

わたしはテーブルに設置された紙ナプキンを3枚取り、涙を拭い、盛大に鼻をかんだ。
不思議だった、泣いた後に気持ちいいと感じる事が。

「なに?」

「アンタさ・・・なんぼほどマスカラ塗ったわけ?」

「えっ」

春香がバッグからコンパクトミラーを取り出し、わたしを映した。

「ギャッ!・・・パンダだ」

「そんな可愛いもんじゃないわ、ピエロよ」

再び紙ナプキンで悲惨な目の周りを拭く。

「せっかく気合い入れたのに・・・」

「なんで気合いの表れがそのメイクになるのか理解出来ないわ。ファンデも色が合ってるのか知らないけど塗り過ぎだし、眉毛も描き過ぎだし、なんかパッと見・・・」

「舞妓さんね!わかってる!」

「・・・なんか、ここに来るまでのアンタが手に取るようにわかるわ。落ち着きなく動いてたんでしょ、どうせ」

「うっ・・・」 なぜわかる。わたしの周りはエスパーだらけか?

「アンタほどわかりやすい人間って、この世に存在するのかしら」

「ウォッホンッ・・・それで、聞きたい事ってなに?」

「ああ、うん。アンタが霊が見えること・・・」

わたしは手のひらを春香に向け、続きを遮断した。

「ゴメン・・・その前に一個。わたしが見えるのは、その、霊ではないんだよね」

今日初めて、春香が怪訝な顔をした。

「霊じゃない?じゃあ何よ」

──どう、伝えるべきか。前に早坂さん達と待ち合わせをしたカフェでの事を思い返した。あの時、わたしが聞いた事に対して早坂さんが言ったこと。

「妖怪?」

春香は怪訝な表情のまま、残り少ないウイスキーを飲み干した。

「すみませーん!ウイスキーロック2つ!」


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