8
「ちょっ、泣いてんの?やめてよこんな所で、あたしが泣かせたみたいじゃない」
込み上げてくる涙を抑えることが出来ない。
なんでこの女は、いとも簡単にわたしの言う事を信じるんだろう。いや、本当は理解に苦しんでいるのかもしれない。それで当然だ。
でも、わたしが言ったという理由だけで、それだけで、こんなにもすんなりと受け入れてくれるんだ。
「ヒック・・・ヒッ・・・」
「その酔っ払ってんのか泣いてんのかわかんないのやめてくれる」
「・・・泣いてる」
「じゃあ一刻も早くやめてくれる。イロイロ聞きたい事あんだけど」
わたしはテーブルに設置された紙ナプキンを3枚取り、涙を拭い、盛大に鼻をかんだ。
不思議だった、泣いた後に気持ちいいと感じる事が。
「なに?」
「アンタさ・・・なんぼほどマスカラ塗ったわけ?」
「えっ」
春香がバッグからコンパクトミラーを取り出し、わたしを映した。
「ギャッ!・・・パンダだ」
「そんな可愛いもんじゃないわ、ピエロよ」
再び紙ナプキンで悲惨な目の周りを拭く。
「せっかく気合い入れたのに・・・」
「なんで気合いの表れがそのメイクになるのか理解出来ないわ。ファンデも色が合ってるのか知らないけど塗り過ぎだし、眉毛も描き過ぎだし、なんかパッと見・・・」
「舞妓さんね!わかってる!」
「・・・なんか、ここに来るまでのアンタが手に取るようにわかるわ。落ち着きなく動いてたんでしょ、どうせ」
「うっ・・・」 なぜわかる。わたしの周りはエスパーだらけか?
「アンタほどわかりやすい人間って、この世に存在するのかしら」
「ウォッホンッ・・・それで、聞きたい事ってなに?」
「ああ、うん。アンタが霊が見えること・・・」
わたしは手のひらを春香に向け、続きを遮断した。
「ゴメン・・・その前に一個。わたしが見えるのは、その、霊ではないんだよね」
今日初めて、春香が怪訝な顔をした。
「霊じゃない?じゃあ何よ」
──どう、伝えるべきか。前に早坂さん達と待ち合わせをしたカフェでの事を思い返した。あの時、わたしが聞いた事に対して早坂さんが言ったこと。
「妖怪?」
春香は怪訝な表情のまま、残り少ないウイスキーを飲み干した。
「すみませーん!ウイスキーロック2つ!」