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緊張しているのか、手のひらに汗が滲む。

「まっ、とりあえず、ウイスキー飲んでからにしましょ」

わたしはガクッと頭を垂れた。まあそれについては、わたしも賛成だが。もう少し、お酒の力を借りたいところだ。

頼んでいたポテトが到着すると、春香は一口食べるなり眉間にシワを寄せた。

「イマイチね」

「うん、まあ・・・納得」

「ポテトは普通に美味いけど、残念だわ」

「まあしょうがないよ、ここリーズナブルな居酒屋だし、ウチのとこみたいに良いトリュフ塩使ってないだろうから」

「普通のポテトにすればよかった」

「わたしは言ったけどね、一応」

「もっと押しなさいよ」

「押しても結果は見えてる」

春香はテーブルに肘をつき、頬に手を当てた。「押してみなさいよ。どうなるかわかんないじゃない」

「・・・さっきわたしが押してたら普通のポテトにしてた?」

「いや?」

「ほらなっ!」

「なんで従うのよ」

「・・・はぃ?」

「譲らなきゃいいじゃない」

「いや、別にポテトごときで・・・」

「そーゆうとこよ」

春香は持っていたポテトでわたしを指した。目の前にやってきたポテトに、わたしは反射的に喰いつく。春香は自分の手まで食べられる寸前でパッと手を離した。

「こわっ・・・犬かっ!」

「ごめん、目の前に来たから」

「・・・野生動物」

「よく言われる」

春香はふうと息を吐き、ポテトを口に咥えた。「ポテトだろうが飴だろうが自分の意思を示せって言ってんのよ」

「・・・飴?」

「ここに2つの飴があるとするわよ」

「・・・はい」

「イチゴ味とマンゴー味。好きなほう取ってって言ったら、アンタどーする?」

──これは、何かの心理テストか?

「マンゴー」

「その前に、好きなほう取ってって言うでしょ」

「・・・ん?まあ」

「でも、自分が今食べたい味があるじゃない」

「いや、とくには・・・」

「好きなほうを選んでって"言ってくれてる"のよ、なんで選ばないのよ」

「いやだから、飴ごときで・・・」

「じゃあこれが、超高級ステーキと激安スーパーのステーキだったら?」

「極端だな・・・」

「それでもアンタは、最初に選ばせるでしょ」

──何故、こんな話になっているんだっけ。

「まあ、そうかもしれないけど、それが?」


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