15
「わたしも失礼するわ」頭上の空舞さんが言った。
「えっ!行くんですか?」
「ええ。言ったでしょ、あなた達と一緒にいるのは苦痛だって。それじゃあまた」
「またね、空舞ちゃん」
早坂さんはすんなり受け入れ、空舞さんは川の渡り遠くの空へと飛んで行った。
「いいわねぇ・・・あたしも空を飛びたいわ」
「まったく同じこと、前も言ってましたよ」
「あら、そうだったかしら?」
「あはは」
──そして、2人の間に沈黙が流れる。
なんだろう。今の今まで普通に話せていたのに、突然スイッチが切り替わったように緊張が押し寄せる。
何か、言わなくちゃ──沈黙が続くほど、緊張感が高まる。
「昨日と同じ帽子ね」
──追い討ちを、かけられた。
昨日の事がよみがえり、この場から走って逃げたい衝動に駆られた。昨日の話をするのが怖い。でもそれと同時に、ちゃんと話を聞きたい思う自分もいる。
「独り言、言っていい?」
早坂さんはポケットに手を入れ、空舞さんが飛んで行った方向を見ている。そして、独り言って、許可を得るものなのか?
「あい・・・」
「昨日の彼女は、店の従業員。お得意様の誕生日の買い物に付き合ってもらったの。そのお得意様はゴルフ好きでね、でもあたしはやらないし?何をチョイスしていいかわからないし?昨日の彼女は若いのにゴルフ歴も長くてね、店でそのお得意様と何度も接してるから好みもわかるんじゃないかって。まあそれだけなのよ」
──ずいぶん、長い独り言だったな。
でも、店の従業員と聞いて心からホッとした。
"あ、雪音ちゃん、彼女はね・・・"
昨日の事を思い出した。そういえば、早坂さんは彼女の事を紹介しようとしていたんだ。その続きは、"従業員"だったのか。
「わたしも、独りごと言いますけど・・・昨日は一真くんの買い物に付き合ってたんです。共通の知り合いがいて、誕生日プレゼントに何を買っていいかわからないからってお願いされて・・・」
「そう・・・同じ状況だったのね」
早坂さんは、まだこちらを見ない。
「はい・・・」
「あの子・・・一真くん、あなたのこと好きなのね」
否定は出来ない。嘘になるから。ハッキリと言われたわけではないけど、一真くんの好意はわたしに伝わっている。
「あなたは?」
「・・・えっ?」
ここで、早坂さんがわたしの目を見た。