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そこで、動きがあった。
いや、動きが止まったと言うべきか。人面魚は川岸にいるわたし達に気付き、みるみると表情を変えた。それはもう絵に描いたような驚きぶりで、目玉が飛び出そうなほど大きく目を見開き、顎が外れそうなほど口を開け、その顔にハッキリと書いてある。

"えっ、見えてるの?"と。

早坂さんが手を振ると、人面魚は慌てて水中へ潜った。

「あら、隠れちゃった。別に何もしないのに」

「すんごいビックリしてましたね。さっきの顔、見ました?」 

早坂さんは思い出したようにプッと笑った。後で思い出しても、絶対笑ってしまう。

「言葉、話せると思うか」

「話せるような見た目はしてるけどね。人間の口が付いてるんだから話せるんじゃない?」

「中条、なんか話しかけてみろ」

「・・・えっ」鬼火の時といい、何故わたしばっかりこんな役目なんだ?「話しかけろって、何を?」

「なんでもいい」

なんでもいいと言われても──ふむ。両手を口に添える。

「お〜〜い!こんにちは〜!言葉わかりますかぁ〜〜!?」

──・・・聞こえてくるのは、川の流れる音、のみ。

「あの!やっぱりわたし凄くアホっぽくないですか!」

「ヤッホーじゃないのね」

空舞さんは時々、馬鹿にしているのか本音なのかわからない時がある。

「まっ、問題はないでしょ。怯えて逃げるくらいだし、何か悪さをするとは思えないわ」

「だから言っただろ、放っておいても問題ないって。それをお前が確かめるだの言うから」

「まあまあ、こんなに近くで見れたんだし、ラッキーと思うことにしましょ」

「俺には顔もよく見えなかったけどな。クソ、またコンタクト合わなくなったか」

瀬野さんは目頭をぎゅっと押さえた。そんなに目が悪いんだろうか。

「老化?」

「・・・お前と同じく歳をとってるはずなんだがな」

「アンタ、昔から目ェ悪かったものね。ろくに勉強もしてないのに」

「少なくとも、お前よりはしてたけどな。よし、俺は帰るぞ。そのまま眼科に行ってくる」

「えっ・・・もお?」思わず心の声が漏れた。こんなに早い解散は初めてだ。

「遊里、お前は残るんだろ?"ついで"に人面魚も見れたしな。中条、またな。気をつけろよ、いろいろと」

「ちょっと!どーゆう意味よソレ!」

「あっ・・・瀬野さん!また、です!」

瀬野さんは後ろ向きで手を上げ、土手道を戻って行った。

「バレてたか・・・意外とするどいとこあるのよね」

早坂さんが瀬野さんの後ろ姿に呟いた。

「何がですか?」

「え?あ、ううん」


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