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「空舞さん、その人面魚って何処で見たんですか?」
「そこよ」空舞さんは、顔をクイっと右に回した。
「そこって、えっ、この近くの川ですか?」
「ええ、餌を食べようと水面からピョンピョン跳ねてたわ」
「・・・餌?」
「さあ、その辺を飛んでる虫じゃない?」
──ピョンピョン跳ねながら飛んでる虫を食べる人面魚。人面魚というのがイマイチ想像出来ないが、人間の顔が虫を食べているところを思い浮かべ鳥肌が立った。
「とりあえず、連絡してみますね」
空舞さんの隣にある携帯を手に取り、連絡先から瀬野さんの名前を呼び出した。そのままメッセージ作成へ移動する。本文にこんにちは。と打って、すぐに削除した。
瀬野さんはメールじゃない、電話だ。
12時半になるところだ、今はお昼休憩だろう。──そういえば、瀬野さんって何の仕事をしているんだろう。これまで聞いた事なかったな。早坂さんと同じく飲食店を経営してるとか?──・・・いや、それは想像出来ない。
そんな事を考えていると、コール音が途切れた。
「もしもし」
「・・・あ、もしもし、瀬野さんですか?」
「・・・誰の携帯にかけたんだ?」
瀬野さんだ。
「今ちょっと、大丈夫ですか?」
「何があった?」
──まだ、何も言ってないんですが。すでに臨戦態勢に入っているのは、それほどわたしからの電話が珍しいからだろう。
「ええと、今、空舞さんといるんですけど、妖怪を見たらしく・・・その事で電話しました」
少し間があった。「なんで俺にかけてくるんだ」
「えっ!いやっ、それはですね・・・」
今までの事を考えれば瀬野さんが不思議に思うのも当然で、そこまで想定をしていなかった。
「誰?」
微かだが電話の向こうで馴染みのある声が聞こえ、わたしは石化した。
「中条だ」
その言葉で、石化にヒビが入った。
瀬野さんが中条と言ってわかるのは、1人しかいない。
一緒に・・・いるのか・・・。
「空舞が・・・」瀬野さんの声は、雑音と共に途切れた。
「もしもし雪音ちゃん?」
Oh──No──!!
わたしは携帯をベッドに放り投げ、頭を抱えた。
「どうしたの?」今のは早坂さんではなく、空舞さんだ。わたしは涙目で携帯を空舞さんに向けた。
「なに?」
「空舞さんが話してくださいッ」早坂さんに聞こえないように、ヒソヒソと言った。
「声が小さすぎて聞こえないわ」
絶対聞こえてるよ、この鳥(ひと)。