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エピローグ

 あれから三年後。

 白雪さんが高校を卒業するのと同時に、僕は二度目のプロポーズをした。気持ち良く、心地良く、白雪さんは花を咲かせるようして笑顔で快諾してくれた。

 そう。僕達は恋人から夫婦になったのだ。

 そして今は、甘い新婚生活を送っている――はずだったんだけれど。

「どう、麗ちゃん。原稿は間に合いそう?」

 分かりやすいように最初は『白雪さん』と言ったけれど、本当はお互いに『麗ちゃん』と『正宗さん』と呼び合うようになっていた。

 で、『風花うらら』としてのことなんだけれど。彼女はあっという間にプロの漫画家になることができた。高校生の時点で。

 瀬谷ちゃんが言った通り、風花うららは『化けた』。教えること全てをすぐに吸収していったらしい。これには、さすがの瀬谷ちゃんも驚いていた。

 そして今、『風花うらら」は少女漫画の月刊誌で連載をしている。大人気作家として。瀬谷ちゃんの手腕もあったかもしれない。だけれど、『風花うらら』の才能、そして努力が実ったというのが実のところだと僕は思っている。

「あ! 正宗さん! ちょうどいいところに! ベタ塗り手伝ってもらえませんか? あと消しゴム。それとカケアミとトーン貼りも!」

「ええ……。あのー、麗ちゃん? 僕、久し振りの休みなんだけど」

 本当に久し振りの休みだった。会社に泊まり込んで仕事をしていたから。さすが編プロ。僕が入った編プロはいわゆるブラック企業だったのだ。

「んふふー。なんてったって、私はわがまま姫ですから」

「まあ、仕方がないか。いいよ、オッケー。手伝うよ。今は麗ちゃんを無理させたくないし。さっさと終わらせよう」

「それでこそ、私の正宗さんです! あ、その前に。ねえねえ、作業に取り掛かる前にエネルギーを補充してください」

 本当にもう。わがまま姫なんだから。でも、僕もやぶさかではないし、こうして麗ちゃんと一緒にいられるのも久し振りだし。

 僕は、麗ちゃんを抱き締める。そして、彼女の唇に、僕の唇をそっと重ね合わせた。二週間振りの、キスだった。だから僕は、いつもよりも長い時間、彼女の唇を離さない。それは麗ちゃんも同じだった。僕の唇をいつもよりもずっと、ずっと、重ねる。一度離しても、何度も何度も、キスを求めてきた。

 そして、僕達は唇を離し、見つめ合う。

「えへへー、エネルギーの補充完了です。あ、でもすぐにまたエネルギーがなくなっちゃうかもなあー。チューしたくなっちゃうだろうなあー」

「うん、それは僕も同じだよ」

「あ、正宗さん。ちょっとお願い事が。瀬谷さんって正宗さんのお友達じゃないですか? 伝えておいてほしいことがあるんですけど」

「お友達というか、まあ戦友って感じだけど。で、どうしたの」

「あ、あのですね。瀬谷さんってすごく良い人なんですけど、その……。打ち合わせだとか電話だとかで、ずっとBLについて話してきまして。その内容があまりにも、え、エッチすぎるし過激すぎて。止めさせてほしいんですけど」

 瀬谷ちゃーん!! 僕の麗に何してるのさ!! 麗を汚さないでくれ!! まあ、昔からそうなんだけれど、あの人。でも、少しは変われよ!

「……うん、キツーく言っておく」

「はい、お願いします」

 うう……麗の表情を見るに、よほど切実な問題っぽいな。絶対に止める!

 そうだ、大切なこと。麗のお母さんについて。

 連載を始め、少し経った頃だった。段ボールに入ったファンレターが我が家に送られてきたのだけれど、その中に、麗のお母さんからのものがあった。麗の言う通りだった。お母さんは、『風花うらら』が娘であることに気が付いた。

 それを読むに、いきなり蒸発したのは様々な事情があったらしい。会いたいけれど、会いに行けない、そんな状況。だけれど、それがキッカケで繋がることはできた。住所は書かれていなかったので返事を書くことはできないけれど、麗は毎回送られてくるお母さんからのファンレターを楽しみにしていた。

 きっと、いつか。いつかまた会えることを信じて。

「あ! 正宗さん! また動きましたよ!」

 少しずつ大きく膨らんできた、麗のお腹。そこを撫でるようにして、彼女は目を細めた。そう、麗は今、妊娠している。

「本当だ、動いてるね」

 僕も麗のお腹に耳を当てた。

「えへへ。もう少しで家族が増えますね」

「そうだね、楽しみで仕方ないよ」

 ハッピーエンドの未来。その向こう側。

 そこには、僕と麗だけではなく、もう一人増えるのだ。

 一緒に未来を共にする、大切な家族が――。


『エピローグ』
 終わり

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