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唯一の女性レティシア

 レティシアが起床すると、外が騒がしかった。レティシアは急いで身支度をしてテントを出た。どうやら兵士全員が集まるようにと召集を受けたらしい。

 何故レティシアには伝令が来なかったのだろうか。レティシアは首をかしげながら集合場所に急いだ。

 そこには兵士全員が集まっているようだった。簡易的に作られた台の上にはマティアス王子が立っていた。機嫌が悪いのか顔をしかめていた。

 マティアスの後ろにはリカオンが立っていて、レティシアに気づくと大きく手を振った。

「おお、レティシア!起きたか!こっちに来い」

 リカオンは他の兵士の前ではレティシアの事をレティと呼んでいた。それなのに女の名前で呼ぶという事は、昨日の出来事でレティシアが女である事が露見してしまったのかもしれない。

 レティシアが不安な気持ちで近寄ると、リカオンが駆け寄ってきた。

「申し訳ありません、リカオンさま。何かご迷惑をおかけしたんですね?」
「いいや、レティシアのせいじゃない」

 リカオンはレティシアをうながし台に乗るように言った。

 レティシアが台に乗ると、マティアスが苦虫を噛みつぶしたような顔になった。

「この者はギオレン男爵家令嬢レティシア嬢だ。彼女は希少な召喚士ゆえ、自ら志願して我が軍に同行してくれている。女性であるがゆえ、軍規を乱す恐れを考慮して、男性の振りをしてくれていた。だが昨夜兵士の風上にもおけぬ者がレティシア嬢のテントに忍び込んだ」

 マティアスが指差す視線の先には、顔をパンパンにしたゾーイが後ろ手にしばれてうなだれていた。

「この者は軍法会議で除隊を言い渡した。ザイン王国に強制送還の後刑に処す」
「そ、そんな!お許しください!王子殿下!」

 わめき叫んでいるゾーイを、兵士たちがどこかに連行して行った。兵士たちが解散した後、レティシアはマティアスに呼ばれた。

「レティシア嬢、この度は申し訳なかった。怖い思いをした事だろう」
「お気遣い感謝します王子殿下。この度の見せしめを見れば、他の兵士たちもこのような行動はしないでしょう」
「いや、今後このような事が決してないように、レティシア嬢のテントは俺の横に立てるように」
「えっ!?」

 レティシアは驚きすぎて声を出してしまった。レティシアの態度が、マティアスの提案を嫌がっていると思ったのだろう。マティアスは焦った顔になった。

「い、いや違うのだ!俺は、その、」

 マティアスは突然しどろもどろになる。となりにいたリカオンが、マティアスの肩をたたきながらレティシアに言った。

「大丈夫だよ、レティシア。マティアスはビビリだから夜這いなんてできねぇよ!安心していい」
「リカオン、貴様、」

 レティシアは未来と同じようにマティアスのとなりにテントをはる事になってしまった。

 

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