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レティシアの不安

 ザイン王国軍の行軍は順調に進行を続けていた。女である事を明かしてから、レティシアは生活しやすくなった。

 安心と同時に新たな不安ももたげてきた。レティシアは、これから起こる最悪の運命を変えるために、兵士として行軍したのにも関わらず、結局マティアスのテントのとなりにテントを立てる事になった。

 チップは大きな未来は変える事はできないと言っていたが、やはりレティシアとチップがこの戦争で死ぬ運命は変えられないのだろうか。

 レティシアが不安な気持ちを抱えていると、リカオンがレティシアを呼びに来た。会議に参加してほしいというのだ。

 レティシアがマティアスのテントの中に入ると、マティアス王子を筆頭に軍の上層部のメンバーが集結していた。マクサ将軍ももちろんいた。

 マクサ将軍はレティシアに嫌悪の視線を隠す事なく向けていた。レティシアは気づかないふりをしてリカオンがすすめたイスに腰かけた。

「では、皆そろったところで会議を始める」
「お待ちください、王子殿下」
「何だ、マクサ将軍」
「何ゆえ女性であるレティシア嬢がこの場にいるのですか?」
「レティシア嬢は勇敢な兵士だ、それに召喚士でもある。軍の会議に参加してもらうのが筋だろう」

 マクサ将軍はこれみよがしにレティシアをにらんだがもう何も言わなかった。マティアスは皆が静かになったのを確認してから口を開いた。

「皆も知っての通りあとわずかでイグニア国の国境にさしかかる。私の持つ確かな情報から、イグニア軍の主力部隊とはここで対戦する事になるだろう」

 マティアスは机に広げたザイン王国周辺の地図を指差した。

「確かな情報とは一体どこからなのですか?」

 マクサ将軍は食い入るように質問した。マクサ将軍ですら情報の出所は知らされていないようだ。

 レティシアが視た未来でもマティアスは、確かな情報だと言っていた。その通りレティシアたちはイグニアとの国境付近で、イグニア軍と対じした。

 ザイン王国軍は、イグニア国軍との戦いに勝利するが、勝利をもたらした張本人である霊獣のチップは、ここで著しく魔力を消耗してしまうのだ。

 何としてもチップの魔力をできるだけ消費せずに戦いに勝利しなければならない。

 レティシアが思案している間に、マティアスと家臣たちは激しく意見をぶつけている。レティシアは意を決して声をあげた。

「王子殿下、わたくしの意見を申し上げてよろしいでしょうか?」

 マティアスはレティシアにうなずいて許可を出した。レティシアは席から立ち上がった。マクサ将軍の嫌悪の目を無視しながら。

「わたくしの契約霊獣ならば、このイグニア軍との戦いに大きく貢献できると考えております。ですが、いくら水の霊獣といえども、空気中から大量の水を生成するのはとてつもない魔力が必要です。王子殿下、わたくしに偵察部隊として、イグニア国国境付近の偵察に行かせていただけないでしょうか?」

 レティシアの提案に、マティアスは考えているのか無言になった。すかさずマクサ将軍が席を立って大声でどなる。

「一人でイグニア国の国境に行くなど、怪しい行動だ!マティアス王子、レティシア嬢はイグニアのスパイやもしれません。私は反対です!」

 マクサ将軍の剣幕に、マティアスは口のはしをあげて答えた。

「レティシア嬢の行動が心配ならば、マクサ将軍も霊獣に乗って同行してはどうだ?」

 マティアスはチラリとレティシアを見て笑った。レティシアもマティアスの意図に気づいて笑顔で答えた。

「それはよい提案にございます。マクサ将軍、わたくしの霊獣にぜひお乗りください。雲と同じ高さまで空を飛ぶ事ができます。マクサ将軍は空の散歩を楽しまれ、わたくしはスパイでない事を証明する事ができます」

 マクサ将軍は歯ぎしりしながら黙った。レティシアにイグニア国の国境付近の偵察の許可がおりた。

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