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第23話 通じ合う柚希とエポン!大海の使徒誕生!

 「エポン…もう一度ゆずたちぃ……皆みたいな事ぉ…できないかなぁ」



 そうエポンに話す黄海の視線の向こうには、イブニングとペガサスリコルドと戦うボロボロなシエルがあった。

 その足元には意識が無いソルが転がっている。



 黄海はここに至るまでの戦いを見ていた。

 ソルと3体のリコルドが策を尽くすのも、シエルがギリギリのところでイブニングに食らいつきながらも自分たちに攻撃が来ない様に戦っていたのも見ていた。



 黄海は優しい人だ。

 できる限り自分の周囲には悲しい事が無いといいな、と思いながら生きてきた。

 だからずっと、周りを見て、誰かが一人になっていないか、誰かが寂しい思いをしていないかと見てきた。

 そういう人がいたら、話しかけて友達の輪を広げてきた。

 ゆっくりと話す事で、相手の考えを整理しながら、そうやって人と関わった。



 それ故に、人が傷つくのが嫌いだった。

 喧嘩も、誰かの不機嫌も……自分のために傷つくなんてもっての外だった。

 

 あの自然学習館の日、突然いなくなった2人を探していたら偶然人払いの結界の中に入ってしまったあの時。

 結界内で激しい戦闘を繰り広げていた人たちを見た。

 声が聞こえた時、それが友人たちだとわかるのも時間はかからなかった。

 中で傷だらけになりながら、戦っているのを見て心の底から悲しく思った。

 だからこそ、手元にいたエポンの額に付いた宝石が、その想いに反応し彼女を一時的にアンジェストロにした。

 無我夢中で一体何が起こっているかわからずも、とにかくその時できる事をやった。

 気づけば結界の外のいて、変身も解けていた。



 もし今、同じ事が出来るのなら、彼女たちの力になれるのなら…そう思ったから、エポンにもう一度できないかと言ったのだった。



 「……エポンがやらなきゃいけない事じゃないエポぉ……」



 エポンはそう反論した。

 表情は俯いているせいでよくわからない。でも、声色からはどこか諦めの様なものを感じさせる。



 「確かにエポンとゆずがやらなきゃいけないって事ではないかもしれないねぇ…」



 黄海はエポンが言った事に肯定する。

 含みを持たせながら。



 「エポンはそういうの向いてないエポぉ…そういうのはぁ…やる気のあるラパンやミランがやるべきエポぉ…」



 「…そっかぁ……ゆずはぁ、自分の役目じゃなくてもやれる力があるならぁ、向いてないかもしれないけれどぉやってみたいかなぁ…」



 「じゃ、じゃあユズキがやればいいエポぉ…エポンがやる必要ないエポぉ…」



 エポンは、どうしてもやりたがらない。

 ワガママにも感じられるが、黄海には何か裏、理由があるのではないかと思えた。

 だが今は時間がない。エポンの心を解きほぐす時間の余裕はない。だがしかし、戦いたくないという子を無理矢理なんていうのは、黄海にとっても望んではいない。



 「……ごめんねぇ、エポン。実はエポンに嘘ついてた事あったのぉ」



 だがそれでも、今黄海は傷つきながらも守ってくれている友のために、自分ができる事をしたい。不本意だが、嫌がっている妖精を説得するしかない。

 覚悟を決めたのだ。



 「嘘…エポぉ…?」



 「そう……ほらぁ、さっきエポンが逃げちゃった時に言ったでしょう、物事の難しい所を簡単に考えたりぃ、言い換えたりする事があるってぇ。アレねぇ、ゆずは真逆なのぉ。すぐに難しく考えたりしちゃってぇ、お母さんにも注意されちゃったりするくらいなんだぁ」



 「それが今どう関係あるエポぉ…?」



 「あの時はエポンがぁ、共通点があればお話ししてくれるかなぁって思っんだけどねぇ、今それどころじゃ無くなっちゃったからぁ…。それでねぇ、もしエポンがねぇ、難しく考えるのが本当に苦手でぇ、それでも戦いたくない理由があるのならぁ、教えてほしいなぁ」



 「戦いたくない理由ぅ…エポぉ…?」



 黄海は静かに頷く。

 確かラパンが、天土薫も戦いたくないと思っていると言うような話をしていたはず、きっと彼女にも何かしら理由があるのだろう。ならば、エポンにもそれはあり、どんな気の抜ける理由であっても、受け入れ説得しよう。黄海はそう考えた。



 そしてエポンは、黄海の手の平の上でモジモジしながら顔を上げた。

 瞳には涙が浮かんでいる。



 「エポンはぁ……エポンは失敗したくないエポぉ……」



 「失敗…?」



 「エポンは昔からよく失敗したエポぉ…誰かのお手伝いをしたりぃ~、物を運んだりぃ…色々してたエポぉ……」



 エポンがポツポツと話し始め、それを黄海は静かに頷きながら話を聞いている。



 「最初は皆エポンに期待してくれていたエポぉ…それで色々任せてくれたりしてぇ、エポンも頑張ってたエポぉ…でも段々エポンが失敗し続けるから、どんどん何も任され無くなってぇ……女王様だってエポンに何も言わなくなったエポぉ……期待をされても期待に応えられなきゃぁ、段々と期待されなくなるエポぉ……そうなるとぉ、信用がなくなるエポぉ…信用が無くなれば信頼はされなくなるエポぉ……エポンはぁ、エポンはぁ……」



 「そっかぁ……エポンはぁ、周りから無自覚に背負わされる期待に応えられないのが怖いんだねぇ」



 「エポぉ……それも理由の一つエポぉ…あともう一つはぁ…あの日ぃ…妖精界がイブニングに凍らされたあの日い…昼頃にラパンたちと遊ぶ予定だったエポぉ、でも窓の外を見た時ぃ……すぐ近くでイブニングに妖精界の兵士さんが凍らされているのを見たエポぉ……怖かったエポぉ……そしてもうエポンはここで終わりなんだって思ったエポぉ……」



 エポンは妖精界が滅んだ日、目の前で他の妖精たちが凍っていく光景を見てしまい、それがトラウマのようになってしまったのだという。

 そしてその時、イブニングなどの敵に立ち向かうという事を諦めてしまったのだ。



 黄海は決して聞き漏らさない様に小さい声で相槌を打ちながら、聞いている。



 「色んな人から守る事を期待されている人たちがぁ、見る見るうちに負けていってぇ…誰からも期待されていないエポンにはもうどうしようもない敵なんだって思わされたエポぉ……だからどこにもいかないで、諦めて家で寝てたエポぉ…そうすれば寝ている内に怖い事、辛い事、苦しい事も何もかもぉ、寝ている内に終わるって思ったからエポぉ……でもぉ、ラパンたちはエポンを連れ出したエポぉ、2人はまだ諦めてなくてぇ、妖精界を取り戻そうとしているエポぉ。妖精界で一番強かった女王様だって負けてるのにエポぉ。……だけど段々と諦めない2人を見ていて諦めて逃げている自分が間違えているんじゃないかって思ってきたんだエポぉ、だけどそれでエポンじゃ勝てないエポぉ…それじゃあ、皆の足を引っ張るだけエポぉ……それなら最初からやらない方がいいエポぉ……そう、思ってるエポぉ……」



 エポンは自分の思いの丈を、自分のペースで全て吐き出した。

 自分のかつての挫折、圧倒的な恐怖からの諦念。

 友達の背中から感じる、希望。

 しかし、自分の力の限界を知ってしまっている故の、足踏み。

 黄海にも決して身に覚えのないものではなかった。

 彼女にも同じような思い出はある。流石に故郷を失ったエポン程の過去ではないが。



 「自分にとって辛い事を最優先に考えてぇ、そこから逃げる事は決して悪い事じゃないよぉ。ただもし厳しい言い方をするならぁ、それは解決にはならないしぃ、辛い事苦しい事は形を変えて何度だってエポンの元に来るかもしれないんだよぉ」



 「形を変えて…エポぉ」



 「うん……でも戦っているラパンちゃんたちを見てぇ、思う事があったのならぁ、きっとエポンの中にも故郷を助けたいって思いがあるんじゃないかなぁ?」



 「エポンの中に…エポぉ……」



 エポンは小さな自分のヒレで自分の胸に触れる。

 彼の優しさだけでなく、恐怖すら利用する言葉をかける事に、黄海は少し負い目を感じつつも、話を続けた。



 「もしぃ……もし失敗した時の事を考えて怖くなっちゃうのならぁ、ゆずの世界を守るためにぃ、ゆずの友達を守るためにぃ手を貸してくれないかなぁ?」



 「ユズキのエポぉ?」



 「そう、エポンのためじゃなくてぇ、ゆずのため。そうすればエポンはあまり責任感を持たなくてもいいしぃ、いつかエポンが自分の世界のためぇ、自分のためにぃ戦おうって思えるようになるんじゃないかなぁ…?」



 「ユズキのためエポぉ……ユズキが生まれた世界のため…エポぉ……」



 エポンは黄海からかけられた言葉を反復する。

 小さな声で、ブツブツと呟く。

 一瞬ソルたちがいる方をチラッと見る。

 そしてエポンは深呼吸をした。

 一度ではなく、二度三度行う。

 次に黄海の目を見た時は、まだウルウルと涙を溜めている目だったが、決意をした目をしていた。



 「え、エポン……やるエポぉ…ユズキと一緒にぃ……優しくしてくれるユズキの世界を守るためにぃ……エポン戦うエポぉ…!」



 その言葉に黄海は笑顔になった。

 嬉しかった。心の奥底に騙したような、唆したような、罪悪感を感じてはいたものの、それでも彼女の友達、エポンの友達を助けに行ける事に嬉しく思った。



 すると、エポンの額の宝石か輝きだし、黄海の右手首に二つの輪が複雑に絡み合ったような意匠の腕輪が光輝きながら付けられた。

 黄海にはそれが、ラパンが言っていた腕輪だという事に気づくことに時間はかからなかった。

 エポンがその腕輪に、ヒレで触れる、

 それを見た黄海はそれに倣って、左手で腕輪に触れる。



 2人の頭の中に、アンジェストロになるための呪文が浮かぶ。まるで最初から知っていたかのように、口馴染みのいい言葉だった。



 その言葉を口にしようとしたその瞬間、エポンが黄海の方を振り向いた。



 「じ…実はぁ、エポンもぉ、ユズキに嘘ついてたエポぉ~」



 「え、ウソぉ?なんかあったっけぇ」



 「博物館に行った時の理由エポぉ~。本当は偶然いたんじゃなくてぇ、カオルの家にいたらイブニングが来てカオルのお母さんをリコルドにして連れて行ったからぁ、心配で追いかけてったからぁ、あそこにいたエポぉ~」



 「!そっかぁ…やっぱりエポンはぁ、勇気があるいい子だねぇ…」



 「エポぉ?」



 エポンには、何の事かわからないようだったが、黄海はニッコリと笑った。

 そして2人は一緒に変身の呪文を唱えた。いつもの様に、のんびりとした話し方ではない、はっきりとした発音で、叫んだ。



 「「コンドラット・アンジェストロ!!」」



 叫んだ瞬間、2人の身体を虹色の光が包み込む。



 光の中で、黄海柚希とエポンが溶け合い一つの身体になっていく、それに呼応しサイドポニーテールが解かれ、髪が黄色みがかった茶髪から、光り輝く黄金の髪へと変化する。

そしてストレートの長髪がウェーブになり、ハーフアップで纏められていく、後頭部の髪の結び目には羽根の意匠の飾りが飾られた。

 黄海の着ていた服は虹色に発光し、上の服と下の服が合体し、淡い黄色のフリルの付いたワンピースになる。虹色の光が黄海の体を包むと、パフスリーブの濃い黄色のジャケットに変化し、ジャケットから雫の様に垂れた光がアームカバーとなった。

 足同士でポンと音を鳴らすと、虹色の光が靴をニーハイブーツへと変化させ、羽根の飾り付けがこちらにも飾られる。

 そして虹色の光が黄海の瞳に点眼するように雫を落とすと、彼女の瞳はシトリンの様な濃くキラキラした深い黄色になった。

 最後に腰から一対の白い翼が生え、アームカバーの上に羽の意匠が施されたガントレットが虹色の光から生み出され、身を包んでいた光がはじけ飛び、降臨する。

 黄色に輝く、伝説の使徒の誕生である。



 「いっくよぉ~!」

 《うぅ…やっぱり怖いエポぉ~…》

 「だいじょーぶぅ、ゆずに任せてぇ~」



 変身した黄海は上手に羽を使って、イブニングとペガサスリコルドに向かって突っ込んでいく。

 黄色の輝きを放ちながら凄まじいスピードで駆け抜けていく様は、まるで水中を泳ぐシャチの様だった。



 「なんだぁ…!?」



 突如視界に飛び込んできた黄色の光に困惑したイブニングは、ペガサスリコルドと共に、黄海によって殴り飛ばされた。

 イブニングは瞬時に闇エネルギーの防御壁を作り後ろに下がっただけであったが、ペガサスリコルドは足元に攻撃を食らったため、後ろへゴロゴロと転がり倒れ込んだ。



 そして黄海は傷だらけでへたり込んでいるシエルと、疲労から意識を失っているソルの前に立った。



 「広大なる大海の使徒!メール・アンジェ!!」

 《エポぉ~》



 と高らかに名乗りを上げた。

 そしてその姿を見た、シエルは目を輝かせて、「エポン…頑張ってくれてるのね…」と呟いた。

 彼の思いは詳しくは知らなくとも、きっとこの場所に立つのには勇気がいるだろうと、シエルなりに考えたからだ。



 「ごめんねぇ~、後はゆずに任せてぇ」



 「その姿の時は、アンジェストロの名前を名乗るのよ、メール」



 「あ、そういうもんなんだぁ~」



 先程までの絶望感など、どこへ行ったのかシエルはにこやかにメールと話す。

 もちろん、それを見ていてイブニングは面白いとは思わない。

 むしろ、3人に増えたアンジェストロに更なる怒りを感じていた。



 「ふざけんなよぉ…!虫みてぇにわらわらと増えやがってぇ…!!クソがぁ!いけ、リコルドォ!!あの黄色い奴もまとめてぶち殺せぇ!!!」



 イブニングの指示を聞き、ペガサスリコルドはソルにやったように勢いよく突進をしてきた。

 風の切る音と共に、一瞬でメールの目の前に現れ、このままではメールは突き飛ばされ、ソルの二の舞になってしまう。

 シエルが、「メール!」と声を荒げる。しかし、メールは目の前のペガサスに動じてはいなかった。

 頭の中に防御するための技の名前が浮かんでいたからだ。

 そして静かに、その技名を呟いた。



 「メール・コンキーリャ」



 そういうとメールの身体が黄色く輝いた。

 この技は体内と体外に隈なくフェアリニウムを纏わせ、身体を硬化させる技である。

 ペガサスの突進が思い切り当てられたメールは棒立ちのまま、ビクともしなかった。

 立ったまま、額でペガサスの全身を食い止めていた。



 「この技ぁ、一歩も動けないんだけどぉ~。でも痛くなくてビックリぃ~」

 《カッチカチエポぉ~》



 「んなぁ…!?無傷だと…?そんなのありかぁ…!?」



 「実際無傷なんだしぃ~、ありなんじゃない?」



 メールはペガサスが思わぬ防御技に怯んだ瞬間、その隙をメールは見逃さなかった。

 瞬時にメール・コンキーリャを解き、自身の右腕にフェアリニウムを纏わせる。拳には外から、手首から肩に掛けては内側にフェアリニウムでコーティングをした。

 そして、頭の中に浮かんだ攻撃技の名前を大きな声で唱える。



 「メール・ティストルぅ!!」



 フェアリニウムを濃く纏わせた、黄金の拳でペガサスリコルドを殴り飛ばした。

 その躊躇ない攻撃に、シエルは思わず「だ、大丈夫なの?中に妖精がいるのよ?」と聞いた。

 メールはニコニコと笑顔を浮かべながら、「なんとなくぅ、妖精さんの場所分かるからぁ、だいじょーぶぅ~」と返事をした。

 どうやら、シエルの様にはっきり見えているわけではないが、感覚的にリコルドの体内にいるリコルドの場所が分かる様だ。



 「じゃあ次はぁ…これ!メール・デルフィーノぉ!」



 メールが右手を前に出して、手の平から、超音波を直線でペガサスリコルドを目掛けて発射した。

 手の平からはいくつもの円形の波長が大きくなったり縮んだりを繰り返しながら出てきており、そのまま真っすぐ素早くペガサスに当たった。



 当たったペガサスリコルドは、突然足元がおぼつかなくなり、数秒フラフラしながらグルグルと弧を描く様に歩き回り、力なく倒れてしまった。



 「そ、そんな馬鹿なぁ…!?酩酊の様な状態にする…だとぉ…?」



 「そだよぉ~、メールも初めて使ったからぁ、こんなに効果があるなんて思ってなかったけどぉ~」



 メールはその後すぐに、全身からフェアリニウムを放出し始めた。

 淡い青色のフェアリニウムがメールを輝かせながら体外に放出されて行き、その放出されたフェアリニウムは帯状になってペガサスリコルドの周囲に漂う。



 「はぁ~!」



 とメールが合図をすると、滞空していたフェアリニウムが黄色に光ってから水へと変換され、ペガサスリコルドを縛り付けた。

 この拘束は、博物館でシエルたちが見たあの光る紐で間違いなかった。



 「す、すごい…あたしたちにはない拘束技……!」



 シエルがおぉ…と感嘆の声を上げていると、メールは「これで終わりじゃないよぉ」と言い、両手を胸の上でバツの字にクロスする。

 そうしたら、胸の中心にフェアリニウムが集束していく。胸元に行くほど葵フェアリニウムは黄色い光に変わっていく。



 その光が極限まで高まった時、メールはクロスしていた腕を広げ、大声で浄化技の名を唱えた。



 「メール・プリエール・イノンダツィオーネぇ!!」



 メールの胸の中心に溜まったフェアリニウムは黄金の光線となり、ペガサスリコルドに放射された。

 そしてその光は、ペガサスリコルドから闇エネルギーの泥を洗い落とし、中からペガサスの妖精を救い出した。



 「よっとぉ~」



 さらに光線が終わった後は、拘束していた水の帯で、ペガサスの妖精をそのまま自分たちの方へ持ってきて、保護した。



 「あ……あ…あぁ……」



 イブニングは空いた口が塞がらなかった。

 対リコルド戦は、初戦闘のメール・アンジェの完勝だった。



 「や、やった…!凄いわメール!」

 《びっくりミラ…ここまで強いとは……》



 「メールはまだぁ、戦い始めたばっかでぇ、疲れてなかったからねぇ~」

 《エポンも驚きエポぉ~…》



 「あぁあぁぁああ!!!!!」



 「っ!?」



 「な、何ぃ~?」



 突如としてイブニングが大声を上げた。

 それだけなら戦い終わった後なら、よくイブニングは大声を上げていたが、今回の声は今までの様な声ではなかった。

 何か、心の大切なものが壊れたような、生きていくうえで大切な物を失ってしまったような、そのような声だった。

 聞くものに、即座に警戒心を植え付ける、おぞましい叫び声であった。



 彼が叫ぶと、今までは黒い霧や紫色の霧、闇エネルギーの泥などでその場からいなくなっていたのだが、今日は違った。

 その場に留まっていた。



 イブニングは自身のジーンズの右ポケットから、黒い丸い機械を取り出す。

 それからは、異常なほどの闇エネルギーが零れており、アンジェストロになっているシエルやメールにはそれが恐ろしいものに見えた。



 「な、何ぃ…あれぇ…」



 「わ、わからない…わからないけど…ここにいたら不味い!逃げるわよ!!」



 「え、うぅ、うん~!」



 メールがシエルとソルを抱えて空へ飛ぼうとすると、イブニングから「逃がすかよ…」と声が聞こえた。



 ゾッとしたメールが振り向くと、空中に浮いている黒い機械から、大量の黒い泥が溢れ出し丸く、アンジェストロたちとイブニングを覆ってこようとして来ていた。



 「は、早く!飛んで!!メール!」



 「あ、足に力を溜めてぇ…!一気に蹴って飛ぶぅ!」



 メールの足に溜められたフェアリニウムは一気に解放され、地面に大きな穴を作り出すほどの瞬発力を生み出した。

 そうしてジャンプしたメールは両脇に抱えたシエルとソルを離さない様にして、翼を使い逃げようとする。



 だが、泥が広がる速度はそのメールの飛び立つ速度よりわずかに早く、メールたちの頭上は黒く染まっていく。



 「だ、だめぇ…これ以上は早く飛べないよぉ…」

 《え、エポぉ…》



 「そんな…あたしが…あたしが自分で飛べれば…くっ…!」



 アンジェストロたちを逃がさんとする、泥は彼女たちだけではなく、イブニングにも包み込もうとしていた。

 そう、彼もまた逃がしてはならない対象なのだ。

 これを作ったドクターエクリプスが、そう考えて作ったからである。



 ドクターエクリプスによるイブニングを使った最後の実験は順調に事を運び、機械が作動してから15秒後、黒い機械から放出される泥によって、イブニングの身体は肥大化していき10メートル程度の身長となり、先程まではアンジェストロに恨み節を履いていた口も段々とろれつが回らなくなり、次第に人語を喋る事が出来なくなっていった。



 「おぉおオおオおおオォ?」



 思考能力も低下していき、イブニングはただの筋肉質な木偶人形になっていく。

 そうなってもなお、輝きを失いつつある瞳の先には、真っすぐとアンジェストロがいた。 



 4月22日、11時46分。

 神尾町、芝乃川河川敷に直径40メートル程度の黒いドームが生み出された。

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