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第5話 強襲、謎の男!突然の戦い!

 「で、でもそうは言っても一人で戦うなんて無謀ミラ…」



 薫が優しく穏やかな人でそれを望んでいると知ってしまったラパンは、戦いに巻き込んでしまった事に責任を感じ、彼女の心をこれ以上追い詰めない様にするために薫の傍から離れようと決意した。

 だが、ミランは例え特殊な力を持つラパンといえど、ドーン帝国という一人の刺客で妖精界を滅ぼしたような強大な敵と戦うというのは現実的じゃないと感じており、どうにか説得できないかと考えていた。



 「勿論、ラパン一人じゃできる事にも限りがあるのはわかってるラパ。だから、どうにか女王様を復活させられれば…って思ってるラパ」



 「女王様を!?た、確かに…女王様はもの凄い力をお持ちミラ…でもそんな女王様も氷漬けになってしまっているミラ、復活させられたとしても…ドーン帝国と戦って勝てる見込みはあるミラ?」



 ミランは、ラパンの考えを一理あるとは思いつつも、自分たちが逃げる原因となったドーン帝国による侵攻で、女王はたった三人の妖精しか人間界に送れなかったという事実から、果たして女王の持つ力にどれだけ期待ができるのか、疑問を持っていた。

 ラパンもその点については考えていたようで、「だから女王様を復活させるのは最後の手段というより、今すぐにでも復活させて、一緒にこれからの事を話合うラパ」と返答した。



 「これからの事…でも結局アンジェストロの事を伝えなきゃいけないんじゃないかミラ?」



 「それは……か、隠すラパ。ええい!復活させる前から、色々考えても始まらないラパ!まずはどうやって氷漬けになった女王様を復活させるかを考えるラパ!!」



 自分の桃色の手足をバタつかせながら、ラパンは言う。

 薫の家を出て行ってから、色々な事を考えていたからか遂にラパンは投げやりになってきていた。

 その姿を見て、ミランは少し呆れ気味に、溜め息をつくが彼女の言う女王の復活の方法を考えるというのは最終的に氷漬けにされた妖精界の再生に繋がる事なので、決して考えなくていい問題ではないと、心の片隅に置いておく事にした。



 「とにかく、今はカオルの元へ戻る気はないミラね?」



 「…も、もち…」



 「おっと、妖精どもはっけ~ん」



 「っ誰ミラ!?」



 ラパンとミランの会話に、中性的な男の声が介入する。

 慌てて声の方を見たミランとラパンの視界に入って来たのは、緑色の髪で前髪を中心で綺麗に分けたツーブロックスタイルのタレ目の男だった。

 黒のインナーと淡い緑の長袖のワイシャツ、白の長いジーンズと革靴。何ともアンバランスなその風貌が明らかに神尾町の商店街前の通りから浮いていて、不気味な人ならざる者といった空気感と、威圧感を与えていた。



 「あ、あいつ…妖精界を氷漬けにした…ヤツラパ…!」



 「こいつがミラ!?」



 「おっと?兎妖精は俺の事知ってる感じ?俺知らねんだけど?ってまー逃げ出した奴の事を一々覚えてらんないよな」



 砕けた口調とは少し違う、奇妙な言葉遣いの男はポケットに両手を突っ込んだままミランとラパンに近づいてくる。

 カツカツと革靴の足音が迫ってくる。ミランは、このままではラパンだけではなく自分も捕まってしまうと思い、ラパンを足で掴んで、空へ飛び上がった。

 しかしラパンの意に反した行動だったようで、ラパンはジタバタと動いて、下に降ろせと訴えてきた。



 「何言ってるミラ!に、逃げるミラ!ほら、動かないでミラ!」



 「逃げないラパ!ラパンは、逃げずに戦うラパ!」



 暴れまわった結果、ミランの足の力が先に限界が来てしまい、ラパンを地上に落としてしまった。

 浮遊能力を駆使して怪我無く地面に降り立ったラパンは、迫る男の前に立ち、小さな両手を前に突き出した。

 すると、ラパンの両手の甲についている逆三角形のスカイブルーの宝石が輝き始める。



 「おぉ、何すんの?そういや何匹かそうやって反撃してきた妖精いたな。まーすぐに凍ってたけど」



 「ラパンの力受けてみるラパ!”硬直”!!」



 ラパンがその力の名前を叫ぶと、スカイブルーの宝石から光の波が男に向かって放たれた。

 男はその光を避けようとはしない。そのままラパンへ向かって歩き、ラパンの光を浴びた。

 すると、歩いている途中のポーズで男の動きがピタリと止まった。



 「むっ…これは…」



 「どうラパ!これがラパンの力ラパ!」



 「おお!凄いミラ!」



 自信満々に自分の超能力を使ったラパンだったが、その自信はすぐに打ち砕かれてしまった。

 一秒も経たないうちに、再び男が動けるようになったからだ。



 「ふぅん…”硬直”って言ってたし、動きを阻害する系の能力だとは思ってたけど…ここまで弱いなんてなぁ…ははっ、笑っちゃうぜ!」



 「そんな…ラパ…」



 「この程度の力で、俺と戦えるはずがないだろ?馬鹿にしてんの?」



 「ラパン!早く距離を取るミラ!」



 「はっ!遅ぇよ!」



 「ラパぁ!」



 男は思い切りラパンを蹴り飛ばす。ラパンの身体が商店街の門の柱に激突し、鉄と肉がぶつかる鈍い音が辺りに響く。

 ここで、ミランがとあることに気づく。



 「そういえば、何で周りに人が全然いないミラ…?この時間なら普通に人が行きかっていてもおかしくないはずミラ…」



 その呟きに、嫌な笑顔を浮かべた男は答える。



 「今更気づいたかぁ?人払いの結界を張ってんだよ!人通りがあっちゃ、仕留め損ねるかもしれねぇからなぁ…!小さい動物を始末してるところなんて特によぉ!」



 「人払いの結界ミラ!?そ、そんなものがあったなんて…ミラ…」



 「俺たちは皇帝陛下から直々に任務を受けて動いてんだよ!防御手段も持たねぇてめぇら妖精とは大違いなのさぁ!」



 男は右手をラパンに向けて、手の平から黒い光弾を放ち、ラパンにぶつけた。

 光弾が当たるたびに、ラパンは呻き声をあげ、どうにか避けようと動くも、男の攻撃速度が速くすぐに当てられて、吹き飛ばされてしまう。



 「うぅ…痛いラパ…強いラパ…」



 「そのラパラパいうのなんなん?妖精どもは皆変な語尾つけてっけど、気が抜けるよなぁ…まー今はどうでもいいかぁ、なぁ!」



 地面に転がり呻いているラパンをもう一度思い切り蹴ろうと足を振り上げた時、ミランが空か急降下し、男の顔の近くで大きく羽ばたいたり、くちばしで突いたりなどして攻撃を中断させようとする。



 「止めるミラ!止めるミラぁ!これ以上はさせないミラ!!」



 「なんだっ、てめぇ…!鬱陶しいんだよ!」



 男が大きく手でミランを振りほどく動作をすると、一番スピードが乗っている瞬間にミランを拳で殴り飛ばした。



 「ミラぁ!」



 ミランは勢いよく、地面に叩きつけられる。アスファルトは少し砕け彼はゴロゴロと転がり、ラパンの近くで止まった。

 偶然ミランを振りほどけたことを男はニヤニヤしながら、「おぉ!ラッキ~!やっぱ運がいいなぁ俺!」と言って笑っている。

 ミランは自分が今すぐ動けない怪我を負った事を自覚し、ラパンはまだ光弾のダメージが抜けきっておらず、このままでは今すぐ二人ともやられてしまうと把握した。なので、何か時間を稼いで奇跡的に薫がこちらに来て、人払いの結界の中にいる自分たちに気づくことを待つしかないと考えた。



 「お、おい!お前ミラ!何で、ミランたちがこの町にいるって知ってたミラ!」



 とにかく何でもいいから話をする事にしたが、内容は相手が怪しまない事を選んで問いかけた。

 実際ミランは気になっていた。何故、この広い世界の中でピンポイントでこの町にあの刺客もこの男も現れたのか。フェアリニウムだって、違う世界にいればどこにいるかなんてわからない。この世界に来てもすぐには場所はわからないはず…とミランの思考する。



 「あぁ?そんなの皇帝陛下が、この神尾町に行けって仰られたからに決まってんだろうが?流石だよなぁ陛下は」



 「ど、ドーン帝国の皇帝がミラ!?」



 そんな馬鹿な、まさか千里眼でも持っているのか?とミランは驚愕した。それなら、この世界じゃなくてもどんな世界に逃げても見つかってしまうじゃないかと…心が折れそうになった。だが、どうにか堪えて、奇跡が起きるのを待った。



  「じゃ、じゃあ何で…ドーン帝国の皇帝は、妖精界を襲ったミラ?」



 自分たちの世界が襲われた理由。一体どんな狙いがあったのか、ミランは知りたかった。

 女王が狙い?それとも、ラパンやエキュロンのような特殊な妖精が目的?果たしてどのような事情で自分たちの世界を氷漬けにして滅ぼしたのか、聞き出したかった。

 だがこの質問への男の返答はとても冷たく、残酷な物だった。



 「あぁ?知らねぇって。陛下が俺一人で侵略に成功したら、良い役職をくれるって仰ったからやっただけだよ。陛下の深い考えなんて、俺には分りかねるねぇ」



 わからない。これが返答だった。

 ミランは今度こそ絶望してしまいそうだった。

 何も事情を知らない。何なら自分の仕えている相手に理由を聞こうともしない適当な奴に、自分たちの退屈だが楽しかった日々は壊されたのだ。自分たちの親も、友人も、敬愛する女王も、皆氷漬けとなり今も生きているのか死んでいるのかもわからない。

 それをこの男は、良い役職が欲しいから、それだけで何故そうするかも知らず、沢山の妖精たちの人生を狂わせ、巡り巡って薫の人生も狂わせたのだ。

 もはや涙も流れなかった、唯々非情に故郷を痛めつけた仇にはらわたが煮えくり返りそうなくらいの怒りを覚えた。



 「はぁ…ったく、俺のリコルドを倒したっぽいからちったぁ期待してたのに、これじゃぁゲームにもならねぇな…」



 男はそう呟くと、左手をポケットから取り出す。少し力を入れたようなジェスチャーをすると、その周囲にキラキラとした結晶が生まれ、左手が凍り付き始めた。

 これこそ妖精界を氷漬けにした男の技である。

 ミランは、もうここまでかと、悔しさと怒りで男を睨みつけた。



 「じゃ、お前らも凍っとけ」



 そう言うと、左手を地面につけた。すると放射状に氷が広がりミランたちだけではなく、周囲一帯を氷漬けにせんとしてきた。

 急激な温度変化に耐えきれず割れるアスファルト、枯れてしまうオオイヌノフグリなどの道々の草花。

 ミランとラパンが心の中で、妖精の仲間、女王、そして薫にごめんと謝った。



 謝ったその時―――――、「ラパン!ミラン!!危なぁーい!!」



 一人の少女が人払いの結界の中に割り込み凍り付く地面を飛び越え、二人の妖精を空中から拾い上げ、ラパンがぶつかったのとは反対側の商店街の入り口の門の柱に……背中をぶつけた。



 「うぇっ!っつぅ~…大丈夫?二人とも?」



 飛び込んできたのは、彼女をおいて他にはいなかった。

 そう、天土薫である。



 「ど…どうして…カオル…ここに…ラパ…?」



 ボロボロで満身創痍のラパンの問いに、薫は目と目を合わせてにししと笑いながら答えた。

 まるで当たり前の様に。ラパンが言っていた、優しく穏やかな彼女の心を表すかのような暖かな声色で…。



 「ラパンが助けてって呼んだからだよ…!」

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