半生
本題に入る前に、俺の半生を軽く振り返ることにする。
俺は二年前にはもう、なんでも屋だった。
なんでも屋を始めたのは五年くらい前だと思う。
何故健全な世界ではなく、非合法な世界でこの仕事をやることにしたのか疑問に思うかもしれないが、それについて特に理由はない。
強いて言うなら、俺がそういう家庭に生まれたってだけだ。
俺の親は二人とも裏社会の人間だった。
俺が小さい時に両方死んじまったから詳しくは知らないが、多分悪いことをたくさんやってたから罰が当たって早死にしたんだろうなと思う。
なんでも屋を始めるまでの人生は、クソみたいなものだった。
身寄りがなかったし、まともな教育を受けていたわけでもない俺は、他人に迷惑をかける生き方しか思いつかなかった。
盗んだ食べ物で腹を満たし、路地裏で縮こまるようにして眠った。
いつしか俺と同じような生き方をしている仲間に出会い、そいつらと集団でスリをしたり空き巣したり……まぁロクでもないことをしていた。
そしてある日、俺は仲間の一人から誘われて、情報屋のバイトをすることにした。
情報屋のバイトなのだから、もちろん内容は情報収集だ。
情報収集において、ガキであることを活かせる機会は多い。
無邪気を装って様々な場所に潜入することができるのは、ガキの特権だ。
それに、情報屋としても低賃金で多数の人間に情報を集めさせることができるため、ありがたいのだ。
これは俺たちの間で人気のバイトだった。
俺はこの情報収集のバイトが好きだったし、得意だった。
情報屋の爺さんにも実力を認められ、俺だけ小遣いを多く貰うこともあった。
そして、俺がガキと言えない歳になった頃、情報屋の爺さんに
「お前さんは器用だから、なんでも屋なんてやったらどうだ?」
と言われた。
それがこの仕事を始めたきっかけだ。
ちょっと長くなったが、これが俺の半生だ。
じゃあ今から本題である、恋人との馴れ初めについて語っていこう。
カブトには少し言ったが、俺があいつと初めて出会ったのは、あいつが人質として囚われ、俺がその救出に行った時のことだ。
あいつは、いいとこのお嬢さんだった。
いわゆる貴族ってやつだ。
身代金を要求するための人質として、囚われのお姫様になった。
そのお姫様を救出するように命じられたのが俺。
命じてきたのはあいつの父親だった。
依頼を受けた時は、正直意味が分からなかった。
なんで由緒正しい貴族サマが俺みたいな法の外にいる奴に助けを求めるのか。
更に俺を困惑させたのが、向こうが提案してきた報酬の金額だった。
馬鹿みたいに安い。
相場を知らないとか、そんなレベルじゃない。
休日のお買い物のお小遣いか何かだと勘違いしているのかと思うくらい安かった。
俺は依頼主の正気を疑った。
娘が人質に取られていて、その救出を俺みたいな奴に任せる。
これがまずおかしい。
報酬の金額が安すぎることも、理解できない。
依頼主は貴族だ。
当然金は持っているだろう。
何故ここまで出そうとしない。
本当に助ける気があるのだろうか。
俺は報酬額を聞いた瞬間、やる気が失せていたのだが、冷静に考えるうちに興味が湧き、依頼を引き受けることにした。