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「あら、力持ちねぇ」
「泳斗くんくらいならわたしでも出来ますよ。街で肩車してる親子とか見ると、いいなぁって思ってたんです」
「そうなの?なんだ、言ってくれればいつでもしたのに」
「・・・わたしがしたいのは、肩車する方で、される方じゃありません」
「良いこと聞いたわ。ふふ、今度ね」
ニヤリと笑う顔に悪寒が走った。そして、人の話を聞いていない。
毎度の如く助手席のドアが勝手に開き、わたしは自分が乗り込む前に後部席のドアを開けた。
「瀬野さんどうも。昨日ぶりです」
マスクの事を聞かれる前に、自分から外した。
「遊里から聞いてはいたが、想像より酷いな。どうやったらそんな事になるんだ」
「どうもなってない2人が異常なんです」
泳斗くんを瀬野さんの膝に乗せると、瀬野さんはあからさまに顔をしかめた。
「泳斗くん、大人しく座っててね」
「ユキネはどこに行くの?」
「何処にも行かないよ。前に居るから」
「ボクも前がいい!」
「あー・・・じゃあ、瀬野さん交代してもらえます?」
瀬野さんは助かったと言うように泳斗くんを膝から降ろし、自分もそそくさと車から降りた。瀬野さんからも、苦労が伺える。
わたしが瀬野さんと代わってシートに座ると、泳斗くんは後ろ向きにピョンと膝に飛び乗った。可愛すぎるだろ。
「ええ・・・アンタが隣なわけ」
すでに運転席についていた早坂さんが嘆いた。
「うるさい、我慢しろ。なんなら俺が運転するぞ」
「あ、そうね。じゃあ頼むわ」
そう言うと、早坂さんは運転席のドアを開けて光の速さでわたしの隣へとやってきた。瀬野さんは席を跨ぎ、運転席へ移動する。
「アムッ!」突然、泳斗くんが声を上げた。
「えっ、アム?空舞さん?」
泳斗くんは車内から空を見上げている。そしてその視線が前へと変わった瞬間、空舞さんが降り立った。
「・・・すごい。よくわかったね泳斗くん」
妖怪同士、何か通ずるものがあるのだろうか。レーダーみたいな?
「ああー、またそこに降りるのね」ドンマイ、早坂さん。
窓を開けると、空舞さんが飛んで中に入ってきた。そのままわたしの肩に着地する。
「空舞さん、一緒に行きますか?」
「ええ」
──以前は絶対車や電車に乗らなかったのに。空舞さん、変わったな。
「よし、行くぞ」
「お願いしまーす」
やっと動ける。独り言を呟き、瀬野さんは車を走らせた。