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一足先に店を出て、わたしは自分の目を疑った。いつも通り早坂さんの車が停まっており、いつも通り早坂さんが立っている。
そして早坂さんの隣には──・・・「えっ。泳斗くん?」
「ユキネッ!」
泳斗くんはわたしに気づくと、ダッシュで駆け寄ってきた。そのままわたしの胸にピョンと飛び乗る。
「ビックリした・・・泳斗くん、なんでここにいるの?」
泳斗くんがわたしのマスクを不思議そうに見つめる。
「お疲れ様。さっき瀬野と一緒に迎えに行ってきたのよ。そしたらユキネは何処ってうるさくて。車の中でも動き回るし大変だったわ」
その大変さは早坂さんの表情から伺える。そして、ある事に気づいた。
「この服、どうしたんですか?」
「ああ、買ってきたのよ。正確には人に買わせたんだけど。誰にも見えないとはいえ、さすがに裸のままじゃね」
泳斗くんは白いランニングシャツに黒い短パンを穿いている。しかし、足元は裸足だ。
「着せるのも一苦労だったのよ。靴はどうしても穿きたがらないから諦めたわ」
「ふふ、可愛い」
「可愛い・・・ね。さ、行きましょう」
早坂さんが溜め息混じりに呟いた。車へ向かう早坂さんの背中が疲労を物語っている。わたしはそれが無性に可笑しかった。
「泳斗くん、その服似合ってるよ」
白いランニングシャツというのが妙に"ツボ"だった。最近見た映画で主人公の男性が幼少期に田舎で過ごした姿が正しくこれだ。そういえば、彼も家の周りを裸足で走り回っていたな。
「ボクはコレきらい」泳斗くんは肩の部分を引っ張り始めた。「なんで人間は服をきるの?」
「うーん、そうだね・・・恥ずかしいから?かな」
「はずかしい?なんで?」
「裸を見られるのはね、恥ずかしいんだよ」
「なんで?」
「なんで・・・だろ?わかんないや。みんな泳斗くんみたいに裸だったら恥ずかしくないかもね」
「うん!」
「おっと」服を脱ごうとした泳斗くんの手に触れた。「でもね、この服似合ってるし、わたしはこのまま着ていてほしいんだけど、ダメかな?」
「わかった!」意外にも、即答だった。それに何処か嬉しそうだ。
「あらあら、雪音ちゃんの言うことは素直に聞くのね」
「よーし、良い子だッ」
わたしは泳斗くんを高く抱き上げ、そのまま肩に乗せた。泳斗くんはキャッキャと嬉しそうに声を上げた。