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わかるよ。わたしが何か隠している事に春香は気づいている。疑問、不信感、苛立ち。でも、それ以上に心配してくれてるんだよね。
言えないことが、こんなにももどかしい。

──ふと、思った。
言えないこと。本当に、そうだろうか。言っちゃ駄目なんて、誰が決めた?
わたしが"普通の人間"と違うことを伝えたら、春香はきっと、信じない。いつものように薬をやっているだの熱があるだの散々言われて終わるだろう。でも、わたしが誠心誠意伝えたら?春香はどんな反応をするだろう。

「ちょっと、髪に洗剤ついてるんだけど」

「うん」

「春香」

「なによ」

「スキ」

「・・・この状態でマジッぽく言わないでくれる?一真くんドン引いてるわよ」

「や、引いてないっす。羨ましいなと」

「なになに、どーゆう状況?俺も混ざっていい?」 店長のことは当たり前に無視だ。

「わたしね、秘密があるの」

「・・・なんのよ」

「言っても、病院に連れて行かない?」

「病院?・・・どゆこと?」

「いつか、言うから。ぜったい・・・たぶん。それまで待っててほしぃ」

春香は、何も言わなかった。それでも、わたしの"本気度"は伝わったはず。わたし以上に、わたしの事を知っている春香だから。

「はいはい。よくわかんないけど、わかったわよ」春香がわたしの背中をポンポンする。「だから、いい加減離れてくれない?あたしの髪泡だらけなんだけど」

「あい。ごめんなさい」

わたしが離れると、春香はしかめ面で髪についた泡を手で拭いた。

「アンタがあたしに告白してる間に来たわよ」

「え?」

春香が窓の外を顎で指す。「一真くんもいるし、大体は片付いたから行っていいわよ。てんちょー、雪音この顔なんで、先に帰らしていいですか?」

「オーケーオーケー、その顔でよく頑張ってくれたね」

──顔は関係あるか?

「何か事情があるんでしょ。いいから行きなさいよ」

また、抱きつきそうになった。それを察した春香が速やかに1歩退く。

「ごめん。ありがとう」

「え〜〜、雪音さん、今日も行っちゃうんすかぁ」

「一真くん、いーからほっときましょ。貸しを作るだけ作って後でたんまり奢られるのよ」

「俺、別に奢られたくないんすけど・・・」

「大丈夫。一真くんの分もあたしが飲むから」

「大丈夫の意味が全然わかんないんすけど」

「いーから、早く片して飲みに行くわよ」

春香のアイコンタクトを受け、わたしは速やか帰りの支度を始めた。

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