第49話 唯一王 ダンジョンを去る
「危なかったフィッシュ。私のおかげフィッシュ」
ハリーセルの攻撃がウツロの肩にヒット、その衝撃で腕の力が緩み、俺は魔の手から脱出。
正確さと威力を両立した彼女の攻撃。
そのおかげで俺はウェルキにならずに済んだ。
あの再生速度では、まだ回復しきるのに時間がかかるはずだ。
しかし、その疑問はすぐに解けた。
顔部分に再生能力を絞ったのか──。
賭けに出ることになるが、このまま黙って負けるよりはずっといい。
無理な体制のまま、
相打ち狙いの一撃。
その瞬間、ウツロの足元から真っ白い光を伴った星形の魔法陣が浮き上がった。
「準備はばっちりよ。フライ、離れなさい」
「わかった」
そして俺は地面を蹴飛ばし後方へと退避。その瞬間──。
二人は全力でその手に魔力を込める。
そして、その魔力は魔法陣へと向かっていき大きな大爆発が起きた。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
ウツロは断末魔の様な悲鳴を上げようとしたが、のどが焼かれたのか声にさえなっていない。
しばしの間苦しみながらのたうち回ったものの、すぐにぴくぴくとしたような動きになり、やがてぐったりとうなだれ、全く動かなくなってしまった。
「すごい……」
二人の強さに思わず驚く。ウツロを一撃で削り切った。
「どう、すごいでしょ?」
「やっぱり私は強いフィッシュ。もっと褒めろフィッシュ。」
レディナは自信たっぷりにウィンクをして、ハリーセルは腰に手を当てエッヘンといった感じの物言い。
確かにすごい。褒めてあげたいけど、流石に俺の体力も魔力ももう限界。やはり加護を全部発動させながら前線で強敵と戦うというのはつらい。
もう少し戦いが長引いていたらやばかった。思わずその場に座り込んでしまう。
レディナは俺の消耗具合を察してくれたようで、フッと微笑を浮かべて話しかけてくる。
「ありがとう、あんたが加護も前線での戦いもこなしてくれたからこっちは楽で助かったわ」
「そう言われると、こっちも頑張った甲斐があったよ」
なんていうか、こうリスペクトし合えるのっていいよな。以前は、俺がどれだけ後方で加護を発動しても認められることなんてなかった。
毎日罵声ばかりだった。けれど、今は互いが互いの頑張りを認め合い、こうしていい関係ができている。
だから、俺だってもっと頑張ろうと思えるし、彼女たちだって周りを信じたプレイングができる。
本当に、大切にしたい。そんな仲間に出会えた。
そしてもう一人、こっちに向かって歩いてきた。
「こっちは片付きました。そちらも、勝負はついたようですね」
フリーゼだ。
フリーゼの方も何十体もいる強化されたデュラハンをすべて倒しきったらしい。
流石はフリーゼといった感じだ。
「申し訳ありません。そちらのお役に立てなくて……」
「そ、そんなことないよ。フリーゼがデュラハンを倒してくれたおかげでこっちはウツロとの戦いに集中できたんだ。感謝してるよ」
「そうよ。そこまで卑下する必要なんてないわ」
レディナの言う通りだ。彼女のおかげで俺たちの作戦がデュラハンに邪魔されずに済んだともいえる。
派手な活躍こそできなかったものの、十分すぎるくらい戦ってくれた。
「では、そのように受け取っておきます」
フリーゼが、うつむきながら言葉を返した。
「うぐっ、うぐっ──うわあああああん!! ひっく、ひっく──」
ミュアは、壁にもたれかかりながらただ泣き崩れていた。
絶体絶命のピンチをしのぎ、現実に戻ったのだろう。
戦うことはおろか、まともに歩くことすら難しい様子だ。
「ったく、わ、私が肩を貸すわ。ほら──」
キルコも、ミュアよりまだましなものの明らかに動揺している。
身体は震え、会話がおぼつかない。当然だ。幼いころから一緒に戦っていた仲間があんな見るも無残な最期を遂げたのだから。
キルコはうつろな表情をしながらレディナの肩を借り、立ち上がる。
「うぅ……、ひっく、ひっく──」
ミュアは、壁際に座り込んでただ泣いている。とても立ち上がることなどできなさそうだ。
俺は彼女の手をそっと握る。
「とりあえず、撤退しよう」
そっと声をかけると、泣きじゃくりながらコクリと頷く。キルコとは違い、あまりの絶望と恐怖で立つことすらままならなそうだ。
仕方ない、おぶっていこう。
俺は泣き崩れているミュアを背中に乗せる。
「じゃあ撤退するぞ、いいか?」
「待ってフィッシュ。お宝がいっぱいフィッシュ。せっかくだから持って帰るフィッシュ」
「──それもいいわね。私が許可するわ。好きなだけ持っていきなさい」
ああ、確かに目の前に宝はあるな。
レディナも持って帰っていいって言っているし、周囲にある宝、持ってっていいなら持っていこう。これからの資金の足しにはなりそうだ。
「了解しました」
手が空いているフリーゼとハリーセルがウツロのそばにある宝を持てるだけ持つ。
「とりあえず、持てるだけ持ちました。それでは帰りましょう」
「そうだな、フリーゼ」
そして俺たちはこの場を去っていく。しかし、予想もしなかった事態になったな。まさかウェルキが死ぬなんて。思いもよらなかった。
いつも俺に当たり散らしていて、ふざけたやつだと思っていた。けれど、流石に死んだとなると考えるものがある。
「うぐっ、うぐっ」
いまだに泣きじゃくっているミュアに視線を向けながら考える。
彼女たちはこれからどうなってしまうのだろうか。
ウェルキは心底嫌いな奴だったが、腕があるのは確かだ。
これで前線で戦えるのはアドナだけになってしまう。キルコも、出来なくはないが近距離の戦闘だとどうしても腕が落ちる。
せいぜいDランク程度の力だろう。
これでは今まで様に高ランクのクエストを請け負うことはできなくなる。
トランは、実力こそあるもののギルドを追放された粗暴の悪い人物。
一緒に行動したことがばれれば彼女たちも追放されてしまう可能性が高い。
いずれも苦難の道であることに変わりはない。
ミュアは、そんな境遇に耐えられるだろうか。
しかし、彼女だって俺と手を組むかといえば抵抗するだろう。
当然キルコも──。
二人を、信じよう。俺にできるのはそれだけだ。
それからノダルという人物。
取り巻きも含めて相当な人物だということがわかる。あのウツロを支配下に置いたのだからそれは理解できる。
厳しい戦いが待っているのは理解できる。けれど、今の俺たちならどんなことだって乗り切れる。
さっきの戦いで感じた。一人一人が精一杯自分の力を最大限出して戦っていた。
互いに尊敬しあい、以前の俺の様に罵倒することなく。
これからつらいこととか、苦戦することとかいろいろあると思う。
けれど、全部乗り切って頑張ろう。
そんな思いを胸に、この場所を去っていった。