第47話 唯一王 限界へ挑む
ぼとり──。
そしてウェルキの二つに割れた亡骸が地面に落下。
白目をむき、切断された彼の胴体から、噴き出す様に血があふれ出す。
騒然とするこの場。
ミュアとキルコは、ショックで言葉を失っている。
しかし、戦いは終わったわけではない。
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
ウツロは今までにないくらいの雄叫び声を上げながら、こちらに視線を向けてきた。
恐らく、こちらへの敵意を丸出しにしているのだろう。
ミュアとあまりの恐怖と、絶望のあまりなのか目を見開いたままこの場を動かない。
キルコもだ。最初は立っていたが、目に見えるくらい足をがくがくと震わせ、しまいにはぐたりとへたり込んでしまった。
両足が恐怖のあまり竦んでしまい、まともに立つことさえできていない。
おそらく、ここから逃げきることはできないだろう。
キルコも、ミュアも俺に罵詈雑言を浴びせ、切り捨てたことに変わりはない。
それでも、俺は見捨てることができない。
俺、それに続いてフリーゼもウツロと彼女の間に立ちふさがり追撃を許さない。
精一杯にらみを利かせているせいか、ウツロはそれ以上攻撃するのをやめた。
そしてまだ動けそうなアドナとトラン。
もはや勝てないと悟ったのか、鬱屈そうな表情で顔を見合わせる。
そして──。
「こんな化け物。逃げるが一番だ!」
「ああ」
トランは尻尾を巻いてこの場から去っていく。それに続いてアドナも悔しそうに舌打ちをした後、この場から去っていった。
守るべき仲間を置き去りにして。
「待てお前たち、故意に仲間を置いて逃げたらギルドの規約違反──」
「俺はもうギルドとは無関係だ。あとは適当にやってくれ」
確かにトランはそうだが、アドナは違う。ただでさえ以前の見捨て行為でランクが下がっているのに…。
俺が叫ぼうとしたときにはすでに二人の姿はなかった。
「フライさん、二人への気持ちはわかりますが……」
フリーゼの言葉に、俺は現実に帰った。
目の前には、敵意をむき出しにしたウツロ。
ミュアとキルコは、仲間を失ったショックでいまだ呆然としている。おそらく、もう戦うことはできないだろう。
「さすがに二人を背負いながら、こいつから逃げるなんてできないわ」
レディナの言うとおりだ。もし追ってきたら確実に追いつかれる。
けれど、二人を見捨てるなんて選択、絶対に取りたくはない。
相手は強いけど、戦うしかない。
「みんな、戦うぞ。準備はいいか?」
「了解です」
「こうなることは、わかってたわ」
「まかせろフィッシュ。みんなまとめて片づけてやるでフィッシュ」
三人とも戦ってくれるみたいだ。本当に良かった。
俺たちは再びウツロと対峙した。
するとウツロは右手を上げる。
右手が強く光り始めた。
そして、目の前にいる倒したはずの兵士、デュラハンに異変が起きた。
「え……、なんでよ。せっかく、倒したのに……」
キルコが目を見開きながらささやく。彼女の言葉通りだ。せっかく倒したデュラハンたちが復活し始めたのだ。
そして倒したはずのデュラハンの集団は再び立ち上がり始める。
「ただ復活しただけじゃないわ。魔力もさっきより強くなっているわ」
たしかにレディナの言葉通りだ。トランたちと戦っていた時と比べて、身体から出ている魔力の強くなっている。ざっと半分くらいか?
あの魔力からして一人で戦うのはきついかもしれない。しかしウツロとも戦わなければならない。どうするべきか──。
「では、私が周囲の雑魚を片付けます」
手を上げたのはフリーゼだった。
「待て、いくらフリーゼでもさすがに一人では……」
さっきのデュラハンとアドナたちとの戦い。勝ちはしたものアドナたちのコンビネーションが合ってものだった。
いくらフリーゼでもそれを一人で、それもさっきより強化された相手をだ。
「無茶じゃないか?」
「しかし、そうすればあなたたち三人はウツロとの戦いに専念できます。私なら大丈夫です。あの魔力とフライさんの加護なら、十分勝てます」
大丈夫かな。まあフリーゼはこんなところでハッタリを言うやつじゃない。ちゃんと自分の実力を理解し、その中で戦いに勝つための最適解を導き出せる人だ。
信じよう。
「わかった。じゃあフリーゼの事信じるよ」
するとフリーゼはぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。では、行ってまいります」
そしてフリーゼは復活したデュラハンへと立ち向かっていった。
彼女への加護は、絶対に途切れないようにしなきゃ。
無事を祈ってるよ。フリーゼ。
するとレディナとハリーセルが俺の元にやってきた。
「ちょっと、話があるんだけどいい?」
レディナはひそひそとその内容を俺に耳打ちしてきた。
「なるほど。それはいいね。そうしよう」
「ほんとうにいいの? 加護をしながら戦うのよ。魔力切れとか大丈夫?」
そう、二人が考え付いた案は俺に加護と戦闘の両方を強要するものだ。もちろん三人全員。
「大丈夫。三人とも信じているから」
自信のある表情に、レディナも納得。
「じゃあ、信じるわよ」