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第46話 ウェ // ルキ

「雑魚の言う事なんて無視無視、こいつをぶっ倒すぞ!」

「全く、もう──」

 やれやれとあきれるレディナ。仕方がない、こういうやつらなんだ。


 それから彼らの攻勢が始まる。キルコとミュアが再び砲弾を繰り出した。
 ウツロは口から光線を吐いて迎撃。

 両者の攻撃は衝突して大爆発を起こす。
 そして煙で視界が聞かない中、トランとアドナが突っ込んでいく。

 二人は飛び上がって肩位の場所まで飛んだあと、一気に切りかかる。
 ウツロは両手を前面に出し、右手でトラン、左手でアドナの攻撃に対応。


 そして二人を対応をしたおかげでスキができる。

 ウェルキは勝利を確信しニヤリと笑みを浮かべ、一気にウツロの首を目掛けて突進していった。

「よっしゃぁぁ、これで俺たちの勝ちだぁぁ!」

「まてウェルキ。簡単に行き過ぎてる」

 何かおかしい。こいつの持っている魔力に対して簡単に物事が進みすぎている。

 俺には感じるんだ。餌を水中にセットし、川岸で釣竿を握っている釣り人の様にぱっくりと口を上げ、エサが飛び込んでくるのを待っているという感覚を。


「待ちなさい。これは罠よ。止まって」

 レディナもそのことを理解していたようで、必死にウェルキを止めようとする。しかし──。

「待てウェルキ。こいつは誘っている。俺たちが油断して前に出て来るのを!」

 うるっせぇぇぇぇ。お前に手柄なんて渡すかぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 Sランクに戻りたいという彼の強い執念。俺がいなくなってからすべてがうまくいかなかったという劣等感。

 そして目の前の強敵を倒して成り上がりたいという欲望。
 それが彼を盲目にしてしまった。

 するとウツロはウェルキが放った斬撃をするりと交わしていく。まるで、そこに攻撃が来るのを理解していたかのように。

 そしてウツロはウェルキの腰のあたりをガシッと掴む。

 ウェルキは何とか脱出しようと懸命にもがくがどうすることも出来ない。

 浴びえ切った目のウェルキとウツロの目が一瞬だけ合う。


 アドナとトランがウェルキを助けようと立ち向かっていくが、その瞬間ウツロは左腕を彼らの元へと向けてくる。

 そして彼らがウツロに接近し切りかかろうとしたその時。

 ドゴッ!

「な、なんだこれは」

 二人は何もないはずの空間にぶつかり先へ進むことができない。


 よく見ると、そこに透明なガラスの壁のようなものが出現しているのがわかる。

 ウツロが出してきた術式だ。強力な障壁を展開したのだ。

「やばい、助けないと!」

 ミュアとキルコもすぐに術式を繰り出し、障壁をたたき割ろうと攻撃を開始する。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 しかし、障壁にひび1つ入れることができず、攻撃は防がれてしまう。
 どうすればいいかわからず、彼らの表情に絶望感が漂い始める。


 そして、終焉の時間はやってきた。

 ウツロはその醜悪に満ちた顔でにやりと笑い、鷲掴みにしているウェルキへと視線を向けると──。

 ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 なんと掴んでいる手に力を入れその肉体を引き裂こうとし始めたのだ。

 身体を引き裂かれる苦しみを味わい、断末魔の叫び声を上げる。
 その光景にアドナたちは絶句し何とか障壁を突破しようとするがどうすることも出来ない。

「やめてよ、話しなさいよ!」

「……どうしよう。この障壁、全然突破できないよ──」

 二人が手を抜いていないというのは俺の目からもわかる。しかし、それだけではひび1つ入れることができない。

 トランとアドナも必死になって障壁に向かって攻撃を続ける。

「やめろぉぉぉぉぉ。ウェルキを離しやがれぇぇぇぇぇぇぇ!」


 アドナが必死に叫びながら何度も何度も障壁に向かって斬撃を入れる。仮にもリーダーの彼は何とかこの状況を脱しようともがくが、どうすることも出来ない。

 ──がアドナの方は全くびくともしないものの、トランの方は何とか障壁にヒビが入り始める。

「この野郎、ぶっ殺してやる」

 だが、明らかに遅い。このままではとても間に合わない。
 気が付けば俺も戦いに参加していた。

 手を出さない約束ではあったが、この絶望的な状況でそんなことは言っていられない。
 助かったら助かったで罵声を浴びることは必死だったが、そんなことは頭になかった。

 そして偶然トランの攻撃と俺の攻撃が同タイミングで斬撃を入れる形になる。

 その瞬間俺たちの行く手を阻んでいた障壁が崩壊した。

「よし、早く助けないと」

 今にも絶命しようとしているウェルキに、俺はすぐに駆け寄ろうとするが──。

「フリーゼ、どうして──」

 フリーゼが俺の腕を強くつかむ。
 ガシッとした、離さないと言わんばかりの強さ。

「ダメです。今行ったら、フライさんまで」

 悲しそうな表情、その眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 俺も、理性では理解していた。もう、彼を助けることはできない、間に合わないことを。

 しかし、いくら罵詈雑言を受けていたとはいえ一緒に戦っていた仲間。
 流石に死ぬとなると躊躇してしまう。

 それが、逃れられない真実だと知っても。

「ギェェェェェッ──。ギャァァァァァァァ──、ウオッ」

 グシャッ──、グシャグシャグシャグシャ……グチュッ。

 あまりの凄惨な事実に、この場にいる誰もが彼の最後から目をそらす。

 ぼとり──。
 そしてウェルキの二つに割れた亡骸が地面に落下。
 白目をむき、切断された彼の胴体から、噴き出す様に血があふれ出す。

 騒然とするこの場。

 ミュアとキルコは、ショックで言葉を失っている。

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