第44話 唯一王 協力を拒否される
「あいつがこの遺跡で一番強い魔物、『ウツロ』よ」
「そうかレディナ」
「多分財宝を守っているのよ。あの財宝に近づいた途端、襲ってくるのが目に見えているわ」
なるほど、守り神みたいな形になっているのか。
しかし、今まででも見たことがないくらいの強さを持っていそうだ。
その肉体からは、今までもトップクラスと見えるくらい強大な魔力を持っている。
外見はクマに近い。十メートルくらいある大きな巨体の熊。
凶暴そうな眼付きでこちらをにらみつけている。
これ以上近づいてきたとたん確実に襲ってくるだろう。
この強さの気配は今まで見たことがない。
「この魔物、相当強いです。ここは全員で、力を合わせて立ち向かいましょう」
「そうだな」
アドナたちと力を合わせるのはしゃくだが、生き残るためには仕方がない。そして俺が剣を構えた。
ガッ──。
すると突然誰かが服を鷲掴みにし、体が前に引っ張られる形になる。
誰かが俺の胸ぐらをつかんできたんだ。
「ウェルキ、どういうことだよ。今は仲間割れしてる場合じゃないだろう」
掴んだのはウェルキだった。それも俺を食い殺してやると言わんばかりのすさまじい形相でにらみつけている。
すると、アドナが俺をにらみつけながら叫んできた。
「お前たちは手を出すな」
「そうだ、俺たちの手柄だ! お前たちなんかに渡すかよ」
アドナとウェルキの言葉、レディナはあきれ果て反論。
「そんなことくだらない意地張ってる場合? 死んだら元も子もないのよ。あんたにも宝は渡すから、力を合わせなさい。じゃないとみんな死ぬわよ」
ここはレディナの遺跡。考えによってはここにある宝は彼女のもの。
それを渡すというのだから、これは譲歩といってもいいだろう。
しかしウェルキはその言葉に耳を貸そうともしない。
「それは貴様たちが雑魚だからだろ! 俺たちはお前たちとは違う、Sランク相当の実力があるんだ。だからお前たち弱虫の助けなんて必要ないんだよ」
「バカね、いくらあんたが強いからって、いがみ合うことないでしょ!」
「もういい。いくらお前たちがクソザコで俺達の力が欲しいからってそんな挑発聞かねぇよ」
ウェルキは聞く耳を持たない。しかしそれでも俺たちは叫び続ける。生き残る確率を少しでも高めるには、多少の罵声など慣れっこだし問題はない。
「大人げないフィッシュ。自分が気に食わないからっていがみ合って、それで全滅したらどうするんだフィッシュ。もっと考えろフィッシュ」
「私も同感です。この魔獣、いままででもないくらいの魔力を感じます。やすやすと勝てるとは思えません。それはあなたたちもおなじでしょう?」
「んなわけぇよ! 雑魚敵だ雑魚敵」
「いえ、心の底ではわかっているはずです。以前あった時とは違い、剣を持つ手が震えています。強がっているのがわかります。感情と欲望に任せて死ぬ確率を高くする。あなた達の行動は感情任せでとても愚かだと感じます」
ハリーセルは感情で、フリーゼは論理で彼らを追い詰めていく。
アドナたちは悔しそうな表情をにじませながら互いに視線を合わせる。
そしてアドナが反論し始めた。
「黙ってろ!」
その言葉に俺達は思わず反論をやめる。そして俺たちに切迫したような、思いつめたような目つきでウェルキが叫び返してくる。
「俺たちがSランクに舞い戻るにはこうするしかないんだよ。無茶苦茶ともいえることをしてでも、それをクリアして、周囲を結果で黙らせて自分たちの実力を見せつける。こうでもしないと、俺達は周囲から馬鹿にされたままなんだよ」
そしてその言葉にかぶせるように、冷静な物言いでアドナが語り掛けてきた。
「俺たちは、元Sランクとバカにされ続けてきた。待遇も扱いも露骨に──。だからここで名を上げなきゃいけないんだ」
冷静でこそあったものの思い詰めている様子なのがわかる。
キルコとミュアも、反論こそしないものの俺たちに敵意を持ってにらみつけている。
それだけではない。
どこか追い詰められているような、切迫した表情をしている。
そしてキルコが体を震えさせながら話しかけてきた。
「しょうがないでしょ。あんたを首にして以降、私達はろくな目に合わなかった。調子がとたんに落ちて冒険者ランクは落とされ、苦戦に次ぐ苦戦で本当は弱いとか陰口をたたかれる始末。もう嫌なのよ! もう一度成り上がって、Sランクになるんだから」
ミュアも、思いつめたような表情をしていて、彼女も口には出さないが同じようなことを考えているのがわかる。
「そういう事だ。お前たちの言葉なんかで、俺たちの行動は変わらない。黙って見ていろ。俺たちがこいつを倒す瞬間を」
アドナの態度とその言葉に俺は理解した。どれだけいった所でこいつらは言うことを気かないと──。
「わかったよ。好きにしろ」
俺があきらめてそう返事をすると、フリーゼが肩を掴んで言ってくる。
「ま、待ってください彼らを見捨てるというのですか?」
フリーゼはかあれらを見捨てることに戸惑いを感じているのだ。
フリーゼにとって彼らは俺を見捨てた敵。そんな彼らでも最後のやさしさを捨てていない。
彼女は根はやさしい人なのだと思う。
けれど、やっぱり彼女は精霊だ。
人間の感情ということがまだ理解しきれていない。
「下手に協力しようとしたらこいつらは俺達を攻撃しようとしてくるだろう。説得するという行為自体が無駄なんだよ。これがこいつらの意地というやつだ。好きにさせてやれ──」