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第30話  処罰

 そしてリルナさんの視線はトランへと移る。


「トラン様。それはあなたも同じとなっております。それなりの処罰は覚悟しておいてください」

 しかし、それに対してトランは激しく言い返す。

「ったく。なんで雑魚を見捨てちゃいけねぇんだよ。別にいいじゃねぇかよ!」


 反省もせず罪悪感など全くない口調。

「ダメです。そういった規則です」

 その言葉にトランは舌打ちをした後、納得が行かないというような表情になる。
 それから早足でキルコとミュアのところに足を運び──。
 なんとトランは剣を取り出しミュアの首に突き付けたのだ。


「ふざけんじゃねぇ。俺はSランクの実力者だ。こんなザコどもとは大違いなんだ。俺最強なんだ」

 傲慢極まりないトランにリルナさんはひるまずに毅然として対応。

「確かにあなたは個人の実力だけならSランクに近いものがあります。しかしあなた、素行が悪いうえに、チームとしての行動ができないと聞いております。
 いくら剣術が優れていても後方から術式を撃ってくれる人がいなければ、強大な敵に勝つことはできません。あなたがいくら強くても一人で何でもできると思ったら大間違いです」

「それはほかの奴が雑魚だからだろ! 弱いから群れなきゃいけないんだろ。だからパーティー制なんてクソみたいなシステムができて、俺みたいな強くて才能のあるやつが弱いやつらのシステムに合わせなきゃいけなくなってんだろ。なんで俺が弱いやつらにい合わせなきゃいけねぇんだよ」

 リルナさんはため息をついた後、冷静ながらもとげのあるような物言いで言葉を返し始める。

「──了解しました。あなたの意見、ある意味ではごもっともかもしれません。しかし、このギルドはその数多くの冒険者たちが安全に、正しくクエストをこなしていくように規則やルールを作り、力になることを目的としています。
 それが気に入らないのであればあなたがこのギルドから去ってもらうことになります。もともと他の冒険者にダンジョンで危害を加えるという重大な規約違反を犯しています。なのでギルドからの追放は十分にあり得ます。自分から出ていくというのであれば、私達は引き留めはしませんが──」

 リルナさんが真顔でトランをにらみつける。いつも優しいリルナさんがこんな表情をするのは初めてみた。
 トランもその様子に思わず一歩引いてしまう。そしてごねるのは無意味だと理解してようで……。

「上等だぁ! 俺の実力を評価しないギルドなんてくそくらえだ! 俺はこのギルドを出ていく。後で吠え顔かいて頭下げてきても戻ってやらねぇからな!」

「──承知いたしました。本日をもってトランさんのギルド登録を除名させていただきます。今まで冒険者としての活動ありがとうございました。トランさんのご武運をお祈り申し上げます」

 トランはリルナさんがしゃべるのをやめないまま後ろを向き、ギルドを出ていく。
 そして最後に壁を思いっきり蹴っ飛ばしてこの場を去っていった。

「ひどいやつだフィッシュ。元仲間にこんなことをするなんてフィッシュ……」

 リルナさんはやり切れないような表情を一瞬した後、強気な表情に戻り、アドナたちの方へ視線を向けた。

「アドナさん。後でお話があります。ミュアさんのダンジョンでの置き去りに関する出来事。先ほども言いましたがこれはギルドの規則違反となります。命がかかっていたということで酌量の余地こそありますもののSランクの称号のはく奪すらありえます。処分が決まり次第あなたたちに内容は通告しますが、それは覚悟してくださいね」

「──わかりました」


 リルナさんのきつい言葉に、アドナが歯ぎしりをしながら首を縦に振る。
 ウェルキとキルコも、苦い表情で同じそぶりをした。相当精神的に答えているのがわかる。

 置いてきぼりを食らった当の本人ミュアは。ただうつむいていた。

 そして気まずい雰囲気となる。沈黙の時間がしばし過ぎた後、フリーゼがリルナさんにそっと話しかけた。

「──申し訳ありませんリルナさん。こんな雰囲気の中恐縮ですが、頼みたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

「なんでしょうか」

「ここにいるハリーセルの冒険者登録をお願いしたいのですが、お願いいたします」

 すると、リルナさんはフッといつもの表情を取り戻し、ハリーセルに顔を向けた。

「承知しました。今準備をいたしますので少々お待ちください」


「わかったフィッシュ」

 そしてリルナさんは事務室の奥へ行って、登録の準備を始めた。こういうことがあってもすぐに気持ちを切り替えて、仕事に戻れることはとてもプロらしいと思う。

 そしてその後、ハリーセルのギルド登録が完了。

「やったーフィッシュ。嬉しいフィッシュ」

「ハリーセルさんはまだEランクの冒険者ですが、早く活躍してランクを上げられるよう祈っておりますので、ぜひとも頑張ってください」

「そうですか。私たち全員、早く高いランクに上がれるよう頑張ります」

「頑張ってくださいフリーゼさん。今回の件の活躍により、二人のランクがDに上がると思われます。これからも結果を残せるようになることをご期待しております」

 その後、俺たちがハリーセルにギルドの仕組みや決まりなどのことを話す。
 どれもハリーセルにとっては初めてのこと。興味津々そうに耳を傾けていた。

「そういえば、フライさんにお伝えしたいことがあるんでした」

「──何があったんですか?」

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