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第29話 唯一王 再びギルドへ

 数日後。
 俺たちは街へと帰還。長旅と疲れで疲労困憊だったため、ミュアと別れた後すぐにホテルに戻った後泥のように眠ってしまった。

 そして翌日、朝食を食べた後結果の報告と、ハリーセルのギルドの登録のためにギルドへと出発。

 ピンク色のぽわぽわとした背が低い女の人、ギルドの受付係の人、リルナさんだ。

 その目の前にはアドナたち四人とトラン。その後ろにトランの仲間がいた。
 しかしどこか雰囲気が良くない。どこかもめているように見える。

 その証拠にウェルキがリルナさんに詰め寄り──。
 バンと机をたたく。

「待ってくれよ。俺たちはただ働きしたってことかよ!」

「ですから、依頼主であるフライさんとフリーゼさんがまだ戻っていません。ですのでクエストが成功したかどうか、どう分け前を与えればいいのかわからないのです」

 リルナさんが困った表情でウェルキを説得している。

「ちっ、仕方ねぇウェルキ。フライ達が生きて帰ってくるのを待つしか──」

「けどアドナ、あいつの弱さじゃ、魔物のエサになって終わりだろ」

 分け前のことでもめているみたいだ。苛立っているのが遠目からもわかる。

 俺たちが戻ってこない以上クエストが成功したかどうかわからない。彼らはあそこで逃げ出していったのだから、その後がどうなったかわからないのだ。 

 だから報奨金の問題とかでもめているのだろう。

 俺たちが説明したら、すぐにわかることだ。仲間を見捨てた報い、すぐに味合わせてやる。

「じゃあ行くよ。二人とも──」

「はい」

「行くフィッシュ」

 トラブルにはなるだろうけど、怖がっていても仕方がない。

 俺たちギルド内に入っていき、リルナさんに近づいた。ウェルキがそれに気づくと早足で俺に近づいてきて胸ぐらをつかんできた。

「おい、クエストはどうだった!」

「どうだったって、この通りハリーセルを連れ帰ってきたよ」

「ほう、お前にしてはやるじゃねぇか。これで報酬は山分け確定だな。やったぜ!」

 俺の言葉を聞いた瞬間、まるでそれが自分の手柄の様な様子ではしゃぐウェルキ。
 それを見て俺は感じた。こいつらは、優しく言った所で理解しないと。あのダンジョンで、何が起こったかを自覚していれば、本来こんな態度はとれないはずだ。

「ウェルキ、それだけじゃない。お前たちとトラン。何か言うことがあるんじゃねぇのか──。ミュアに」

 その言葉に三人の体が一瞬だけビクンと反応する。トランは、一瞬俺に目を向けるだけで特に表情は変わらない。罪悪感のかけらもないってことか?

「い、言う事──。なんだ? よくわからないな。そんなことより分け前の話でもしようぜ」

 アドナのごまかすような物言いにフリーゼが話に入ってくる。

「ごまかすような言葉はやめましょう。あなた達がダンジョンの中でミュアさんを見捨てて自分だけ助かろうとした事ですよ」

 フリーゼらしい忖度なしのドストレートな一言。
 その言葉にアドナたちが一瞬だけ表情を変える。そしてウェルキが動揺をしながら言葉を返してくる。

「な、な、何だよ。訳の分かんねぇこと言いやがって。なあアドナ」

「そうだ。ウェルキの言う通りだ、さては俺たちの評判を陥れて報奨金を独り占めしようという魂胆だな」

 その挙動不審ともいえるそぶりはともかく、自分たちが悪いことをしたとは一言も言わない。

 ミュアは、どことなく暗い表情をしている。当然だ、危機的状況とはいえ、仲間たちが自分を裏切ったのだから。

「仕方がないですね……」

 そのやり取りにフリーゼがボソッとつぶやく。どこか残念な表情をしているのがわかる。
 そのまま俺の前に出てきて二人に話しかけてきた。

「お二人ともそのような嘘をついてよろしいのですか?」

 口調こそ丁寧だが、その言葉に怒りの声が入っているのがよくわかる。
 何か策でもあるのだろうか。

「私の力を使えば、あの遺跡で誰がどんな術式を使ったかここで証明することができます」

 その言葉にアドナたちは体をビクンと震えさせた。
 あれ? フリーゼにそんな力あったっけ?
 するとフリーゼはゆっくりと彼らに近づきながら言い放つ。

「さあ、自分から白状するか、私に暴かれるか選んでください」

 その言葉に二人は目を合わせる。
 あきらめたような表情でため息をつくと、あの遺跡でミュアに何をしたのかアドナが話し始めた。
 もちろん、自分たちがミュアを裏切ったことを含めて。

「その言葉通りだ──」

 リルナさんに、すべてをさらけ出す。
 ハッタリではあったが、フリーゼの強い言葉に押され、本当のことを話していく形となった。

 表情からして一応罪悪感があるのが見て取れる。
 ただ、魔力を記録する力なんて聞いた事がないぞ──。精霊特有の力なのだろうか。

 するとフリーゼが周囲に聞こえないようなひそひそ声で俺に話しかけてきた。

「あれはハッタリです。安心してください」

 ──そういう事か、まあ、相手からすればそんなことはわからないよな。いいハッタリだ。
 ほどなくして話が終わる。リルナさんはがっかりした様子でしばしの間言葉を失う。

 そして暗い表情になって話しかける。

「大変残念です。クエスト中、故意に仲間を傷つけたり、見捨てたりする行為は禁止となり規約違反となっております。Sランクの称号の剥奪も考えられます。それ以外にも罰金などの罰則があなたたちに課せられると思われます。覚悟してください」

 リルナさんの、とても残念そうな表情。やはり共に戦っている冒険者にこんなことを言うのはいい気分ではないのだろう。

 そしてリルナさんの視線はトランへと移る。

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