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「わたしを1人にするのが嫌だからでしょう」
「そうよ」早坂さんは悪びれもなく言った。
「わたしを対等に見てくれるって言ったじゃないですか」
「もちろんそれはそうよ」また至近距離で見つめられ、更に血圧上昇。「でも、それとこれは別よ。単独行動はリスクがあるわ」
「リスクって・・・それを言ったら今の状況だってそうじゃないですか。向こうの出方がわからないなら、試せる事は試したほうがいいと思います」
「ダメよ」
「早坂さん」
早坂さんは、そっぽを向いて黙(だんま)りを決め込んだ。
段々、腹が立ってきた。自分がいる事でわたしを制御させたくないとか言っておいて、結局こうなるんじゃないか。
頭にきて早坂さんの膝から立ち上がったが、すぐに腰に手が回り力づくで戻される。
「離してください」
答える代わりに早坂さんはわたしの両脚を持ち上げ、片膝から両膝に乗せた。わたしの足は完全に宙に浮き、立ち上がる力を失う。
「ちょっと、早坂さん」
どこまでも無視を決め込む気だ。こうなったら全力で抵抗してやろうと早坂さんの身体を押しやり、もがいたが腰のホールドがビクともしない。上昇していた血圧が別の意味でまた上昇する。
力で勝てないなら、別の方法で行く。
「ギャッ!こら!ちょっと、やめなさい!」
やめてやるものか。全ての指の力を早坂さんの脇に注いだ。
早坂さんはわたしの両手首を掴み、自分の片手にまとめた。もう片方の手がまたすぐ腰に回る。そしてわたしは完全に、囚われの身となった。
早坂さんのドヤ顔には、観念なさいと書いてある。
「おい」
瀬野さんの声を聞いて、瀬野さんの事を思い出した。
「お前ら、俺がいる事完全に忘れてるだろう」
「忘れて、ません」 ごめんなさい。忘れてました。
瀬野さんから控えめな舌打ちが聞こえた。「所構わずイチャつきやがって、馬鹿ップルが」
「イチャついてま・・・」
ちゃんと否定出来なかったのは、視界の隅に、何かを捉えたから。目だけを動かし確認する。
──やっぱり。さっきより、近づいている。
「近くにいる?」 察した早坂さんが言った。
「はい、だいぶ近づいてます」