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──どれくらいだろう。とても長く感じたけど、実際は5分程度だったと思う。わたし達はその場から動かず向こうの動きを注視していたが、変化はない。
「行くか」
「そうね。ゆっくりよ。雪音ちゃん、あたしの後ろから離れないで」
「・・・はい」
早坂さんと瀬野さんが並んで1歩踏み出し、ゆっくりと進んでいく。
──「おかしいわね」
数メートル歩いて早坂さんが言った。
「ああ、距離が縮まらん」
「向こうも同じく後退してるのよ」
「どうする?走るか?」
「いや、逃げられないとも限らないし出来れば誘き寄せたいところだけど・・・どうしたもんかしらね」
「だるまさんが転んだ」わたしの発言に2人が同時にこちらを振り向いた。「いえ、向かってダメなら、背を向けて知らんぷりしてたら寄ってくるかな・・・とか」
「・・・そんな簡単にいくとは思えんが」
「でもまあ、他に手はないし、やってみましょうか」
先程居た場所に戻り、2人は灯りに背を向けて大きな丸太に腰掛けた。わたしも座ろうとしたところ手首を引かれ、早坂さんの脚の間に導かれた。そのまま強制的に膝に座らされる。
「・・・あの」
「いいから」
全然、よくないんですけど。たぶん後ろから襲われた時を考えての事だと思うけど、瀬野さんも居るし、非常に気まずい。
でも、良い事が1つ。早坂さんの膝に座っているおかげで振り返らずとも、視界の隅で鬼火の動きを確認できる。
「ただ座って待つ事に意味があるのか」
「それがわかるのは、これからよ。化け猫の時みたいに向こうから寄ってきてくれればいいけど」
瀬野さんがこの状況に納得していないのは、口調と貧乏ゆすりでわかった。かといって、他に何か手が・・・?少し考えて、ふと閃(ひらめ)いた。
「あの、3人で回り込むってのはどうですかね」
わたしのほうが目線が高い分、早坂さんに見上げられる形となり、何よりその距離に血圧が上昇する。
「どーゆうこと?」
「3人バラバラになって、鬼火を囲むように動くんです」
「却下」
今、わたしが言い終わる前に言ったよなこの人。
「なんでですか」
「単独行動はダメよ」
「単独って言っても、そんなに離れるわけじゃないし、そのほうが」
「ダメよ」
早坂さんは、わたしを見ない。