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「いや、まさか。だって、そんなに飲んでないし・・・」
「ロックで3杯飲んだわよ?」
「えっ!2杯では?・・・だとしても、そんなに酔うはずは・・・」
「氷で薄まってるとはいえ、元々度数が高いからね。慣れてないと酔うわよ」
確かに、普段からハイボールは飲むが、ロックで飲むのは初めてだった。それに口当たりが良すぎて、ハイペースだったのも否めない。
「ええ・・・酔っ払ってるのかわたし・・・」
「大丈夫?気持ち悪くない?」早坂さんはしっかりとわたしの腕を掴んでいる。
「そこまでじゃないです。むしろ気持ち良いくらいで・・・」
「あらそう、じゃあ良かった」早坂さんは何処か面白そうだ。「車まで行ける?抱っこして・・・」
早坂さんに強行に出られる前に、バッグを身体に掛け、玄関へと向かった。
「おばあちゃん、今日は楽しかった。またトランプやろうね・・・今度はババ抜き以外で」
「ガッハッハッ!また来いよ雪音!」
おばあちゃんに見送られ車へ向かうわたしに、ピタリとくっついてくる早坂さん。わたしが転ぶとでも思っているんだろうか。そこまで酔っていないし、万が一転びそうになっても自力でカバーは出来る。
「1人で乗れますから」
「わかってるわよ」
いや、わかってないでしょ、この距離感は。案の定、早坂さんはわたしが助手席に乗り、シートベルトをしてドアを閉める所まで見届けた。
── この人は、何を考えているんだろう。なんだか、訳もなく無性に腹が立ってきた。
運転席に着いた早坂さんと目が合う。
「・・・睨まれてる?」
「いいえ」
心地良い車の揺れに、暗闇の中静かに流れる洋楽。良い感じに酔いが回ったわたしには最高の睡眠要素だった。シートに身体を預け、おりてくる瞼に抗いながら窓の外の景色に意識を向ける。
「寝ていいわよ。着いたら起こしてあげるわ」
「・・・イヤです」窓に向かって言った。
「嫌って・・・半分目、開いてないわよ」
「・・・この車が悪いんです」
「え」
「居心地良すぎて、すぐ眠くなる」
「アハハ、まあ、それは何よりだけど。いいから寝なさい」