暗転『※※※世界に亀裂が入りはじめる※※※』
翌日、八月一日。夏ライブ当日の夜。
俺は、バンドメンバーと一緒に食堂棟の中庭にいた。夏ライブも大詰め。俺達の出番まで、もう十分を切った。
「ドキドキしますね!」俺の隣には、くれなゐ先輩が立っている。
中庭に設営された数十個のパイプ椅子はすべて埋まり、さらにその倍以上の立ち見客もいる。大盛況だ。
さっきから、アオ先輩の姿が見えない。もう、準備を始めなければならないのに。
「いよいよ、モヤシくんのバンド人生が始まるんですね」くれなゐ先輩が笑いかけてくれる。
「はい!」そう、いよいよだ。いよいよ、僕のバンド人生が幕を開ける。
「■■■■の皆さんでした~!」俺たちの二つ前のバンドが演奏を終え、軽音学部のMCの二人組が舞台に上がった。「さて、■■大学夏ライブと言えば、二十年という驚異の歴史を持っているのですが――」
MCが場を持たせている間に、舞台上で機材の入れ替えや配置変更、いわゆる『転換』が行われる。
「二十年前と言えば、アナタはお幾つでした?」MCの一人が尋ねて、
「一歳ですね」相方が答える。
「いっちゃい⁉ 若っ!」
「そういう先輩だって、当時はにちゃいでしょ」
パラパラと笑い声が起こる。
それにしても、アオ先輩はどこへ行ってしまったんだろう?
「さぁ、準備が整いました! 次は、夏野太陽率いる『サンオブサン』の皆さんです!」
――パチパチパチパチッ
「…………え?」俺は、混乱する。「どういうことだ? どういうことだよ、これ⁉」
夏野と一緒にステージに上がったのが、
ドラム椅子に座ったのが、
アオ先輩だったからだ。