天の巻
「連載って大変ですね。毎回のネタ探しやら、オチの考案やら、色々あって」
え、よくご存知ですね。
「私も書く事を
そ……そん……な
ううっ……
ぐす……ぐす……ちーん
「どうかなさいました?」
い、いや……そんな優しい言葉かけて貰ったの初めてなもので……
不覚にも涙と鼻水が……
「どうかご無理なさいませんように」
あ、ありがとうございます。
……
「はい、何でしょう」
今、確信しました。
「何をですか?」
やはり、あなたのキャラ設定は間違っていなかった!
「ありがとうございます」
自分で作っといてなんですが、
「それはそれは……ところで一つお願いがあるのですが」
はい、何でしょう?
「その……私と尊さんの立ち位置、逆に出来ませんでしょうか」
そりゃまたなんで?
「尊さんて、いつも時空さんの
はあ、お気持ちは分かりますが、ストーリーの関係上そこを変えるわけには……
「そこをなんとか」
すみません。
「駄目ですか」
申し訳ありません。
「どうしても?」
ごめんなさい。
「……チッ!」
…………???
*********
廃工場での死闘の後、時空らはそのまま伊織の家に直行した。
家の者から出かけたままだと言われ、手分けして探すことにしたのだ。
発見場所は神社の境内だった。
時空の通学路であり、尊が襲われた所だ。
伊織は気を失っていた。
発見した尊の連絡で、時空と柚羽が駆けつける。
目を覚ました伊織は、不思議そうな顔で
「私……どうしたんですか?」
「それはこっちが聞きたい。一体何があった?」
細い肩を支えながら、時空が問いかける。
「私……携帯で呼び出されたんです。主将が……此処で待っているからと……」
まだ意識がはっきりしないのか、伊織は何度か頭を振った。
「何事かと急いでやって来て……でも主将はどこにもいなくて……そしたら急に気が遠くなって……その後の事は分かりません……」
「そうか……とにかく、無事で良かった」
時空はそう言って、優しく肩に手を置いた。
尊と柚羽も、ホッと胸を撫で下ろす。
「あなたを呼び出した相手……誰だったか分かる?」
伊織にハンカチを渡しながら尋ねる尊。
「はい。最初に名乗られましたから……」
伊織は時空に支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。
「
時空、尊、柚羽の三人は、ハッとした表情で顔を見合わせた。
やはり、仄が関与していたか……
時空は唇を噛み締めた。
「時空さんが話しておられた方ですね」
柚羽が、眉をひそめながら呟く。
彼女には、これまでの
同じ【
「でも、どういう事なんでしょう?」
首を傾げる柚羽に、尊も頷く。
「そうね。赤角と仄が関係しているのは、間違い無さそうだけど……なぜ、伊織には何もしなかったのかしら?」
柚羽や尊の疑問には、時空も同意見だった。
赤角は、伊織に化けて時空たちを罠にはめようとした。
仄が伊織を呼び出したのなら、人質に取ろうとしていた可能性が高い。
つまり、仄と赤角はグルだったと考えられる。
時空の名を使い、此処に誘い出し何かしたのだ。
そのせいで、彼女は意識を失った。
あの時、伊織に連絡がつかなかった件も、それで説明がつく。
だが……
実際のところ、彼女は
やろうと思えば、時空らが赤角と対峙している隙に出来たはずだ。
だが、そうしなかった。
なぜだ?
何か別の
尊と柚羽も同じ思いらしく、目を向けると揃って肩をすくめた。
「……とにかく」
尊が、静かな口調で沈黙を破る。
「明日、学校に行けば何か分かるかもしれないわね」
皆の顔に同意の色が浮かぶ。
*********
休日を挟んだだけなのに、登校するのはかなり久しく感じられた。
並んで歩く生徒たちが、どこか異世界の住人のように見える。
それが、この数日間の出来事のせいなのは分かっていた。
変わったのは周りでは無く、自分なのだ。
伊邪那美仄との出会いに始まり、神器との遭遇、異形との闘い……
全てが現実離れしていて、いまだに夢を見ているのではと考えてしまう。
人一倍強靭な精神力の時空でも、平常心を保ち続けるのは至難の業だった。
自分はこれから、どうなっていくのか……
こんな事が、いつまで続くのか……
黙考しながら廊下を歩く時空の表情は、暗く
さらに取り巻きが増え、六人ほどが追従している。
仄に見つめられ、全員が陶酔の表情だ。
鉛を呑み込んだように、時空の胸が重くなる。
聞きたい事は山ほどあるが、人の多いこんな場所で話す訳にはいかない。
時空は、ひとまずやり過ごすことにした。
「あら、時空じゃない?」
意に反して、抑揚の無い声が背中に響く。
振り返ると、氷のように冷ややかな仄の視線とぶつかった。
「おはよう」
「……ああ」
自分でも驚くほど、無愛想な返事だ。
廃工場での一件を機に、仄への不信感は最高潮に達していた。
なぜ、伊織を呼び出したのか……
異形たちと、どう関係しているのか……
詰問の言葉が、喉元まで出掛かる。
だが、今はまずい!
他の生徒たちに、何かあったら大変だ。
時空は言葉を呑み込むと、視線を逸らした。
そのまま足早に、教室に向かう。
「ああ……そうそう」
ふいに背後からわざとらしい声が上がる。
「放課後、ちょっと付き合ってもらえないかしら……お話があるんだけど」
そう言って、仄は小首を傾げた。
女性から見てもドキッとするほど、妖艶な仕草だ。
「なんの話だ?」
「そうね、あなたが知りたがっている事……とでも言えばいいかしら」
その言葉に、時空はハッとしたように顔を上げる。
「じゃあ、前と同じ場所で待ってるわね」
そう言い残すと、仄はにっこり笑って去って行った。
前と同じ場所……
時空と仄の因縁の場所……
すなわち、校舎の屋上に違いない。
全ては、そこから始まったのだ。
一体、話とは何だ?
また、何か企んでいるのか?
あいつ……
俺が断れない事を見抜いている。
神器の謎、異形の事、仄の正体……
自分がその情報を、どれだけ渇望しているか。
どれだけ、答えを知りたがっているか。
あいつは分かった上で、自分を誘ったのだ。
俺が、必ず行くと確信して。
そして悔しいが……
その思惑は的中していた。
時空の心はすでに決まっており、尊にも言うつもりは無かった。
危ない橋を渡るのは、自分一人で十分だ。
決意を胸に、再び歩き出す時空。
だが、彼女は気付いていなかった。
教室の陰から自分に注がれる、何者かの視線に……