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1.




         *

 
 何度か踏み入れた、大統領府の応接間。
 履き潰したブーツで踏むのが心苦しいほど、絨毯は柔らかい。

 
 自分はこの期に及んで、一体何がどうなっているのか、把握しきれていない。
 

 応接間に入るなり、頭を撃ち抜かれた国軍総帥の亡骸が、視界に入る。窓際にぽつんと、そこにある。
 
 ディナーの乗ったテーブルの足元には、手足を放り出して横たわる、頭と両手足を撃ち抜かれたアジア系の中年の女の死体。
 そのそばで項垂れて座り込む、長い黒髪のアジア人の女がいた。まだ若い。
 
 たしか今日の来賓は日本人だった、とぼんやり思い出す。
 
「顔を上げろ」
 中年女のそばですすり泣く女へ、指示する。同時に拳銃を向けた。

「顔を上げろ」
 こちらの言語では通じないのかと思い、英語で指示した。
 若い女は、深く項垂れたまま、こちらを見る素振りもない。
 
「大統領と金髪の男は、お前に何か言っていたか」
 若い女はふるふると首を小刻みに振る。会話もロクにできない。

 何がどうなっている。

 

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