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そして目標の目の前で、急ブレーキをかけた。つもりが、勢い余って前につんのめる。
「おわっ!」咄嗟に両手で受け身を取った。
「ちょっ・・・と、なになに!?」
「ハァ、ハァ、ハァ、遅くなってっ・・・スミマセンッ」
四つん這いのわたしは、顔を上げる余裕もない。後ろから両脇を掴まれ、立たせられた。
まず、瀬野さんと目が合う。怪訝な顔をしている。
「誰かから逃げてきたのか?酷いナリしてるぞ」
そして次に、早坂さんが自分の方を向かせた。「いったいどうしたのよ、そんなに急いで」
寝起きのまま家を出て走ったから、頭が凄い事になっているんだろう。早坂さんが、手で整えてくれた。
「いや、遅刻しちゃったんで・・・ハァ、ハァ・・・」
「いいのよ遅刻したって。走ってくる事ないのに、まったく」
わたしの汗だくの顔を早坂さんがシャツの裾で拭き、ギョッとして身を引いた。
「やっ、汚いから、大丈夫です」
「汚くないわよ。言う事聞かないと舐めるわよ」
本当にやりそうなので、しぶしぶ従う。
「ところで、例のカラスはどうした?」
「あれっ?さっきまで上飛んでたのに」辺りを見回すが、空舞さんは何処にもいない。「空舞さーん!?」
「ここよ」
「えっ」声のする方、つまり、ベンチの下を覗く。居た。「何やってるんですか?」
「様子を見てたの」
そう言い、空舞さんはわたしの肩に移動した。2人を交互に見る。
「初めまして。遊里と正輝ね。わたしは空舞よ」
「あら、紹介は済んでるようね。空舞ちゃんって呼んでいいかしら」
「好きに呼んで構わないわ」
「ありがとう。あなた、とても綺麗な声してるわね」
「あなたこそ。言葉だけじゃなく、女みたいな顔してるわね」
瀬野さんが、クッと笑った。「それは禁句なんだがな」
「昔の話でしょ。今はなんとも思わないわ」
「どーゆう意味ですか?」
「コイツ、昔はよく女に間違われてたからな。まあ、あの時はチビで身体の線も細かったからだが」
女に間違われるというのは、顔の造り的にわからなくもないが、「チビだったんだ・・・」
「ええ。中坊の頃は前から数えたほうが早かったわね。体重も40キロ台だったし」
「へえ・・・」今じゃこんなに重厚感ありありなのに。人間の成長って凄い。