77.勝手に動かないで! 運命
むし暑い。
不快だ。
雨のあとは熱帯夜になってしまった。
でも、希望はあるよ。
買い物袋のなかには夕ご飯が入ってる。
買い物袋はサバイバルキットに入れてるの。
はーちゃんは留守番になってもらって。
ボランティアの炊きだしでもらってきたんだ。
私のは箱づめになったハンバーガーやカラアゲ、サラダのセット。
監視が長引きそうだから、夜食に笹寿司をもらってきた。
おにぎりサイズが、6つで1パック。
爽やかな気持ちにさせてくれる香りの笹をめくると。
まず桜エビ、黒胡麻、ふのりが顔をのぞかせる。
裏には鱒としょうが。
これだけでも十分そうだけど、安菜は追加でテンプラ丼を持ってる。
おいしそうな薫りが鼻をくすぐる。
「知らなかった。
あんたたちって、こんなおいしそうなのもらえるんだね」
皆さんの、好意だよ。
空の満月がきれいなのも、救いだよ。
華やかな百万山比咩神社と、そこからつづくメインストリート。
九尾 クオさんに直されて良かった。
いまは、戻ってきた人たちがボランティアをしてくれてる。
今は道路1つ通ったすぐ近くで炊きだししてくれてる。
ありがたいよ。
そしてその通りは、疲れきったハンターキラーが、休んだり補給したりしてる。
気は晴れない。
ふたりは、あまり楽しくないおそろい。
灰色の、ぶ厚く重いパイロットスーツ。
同じ色のキャップをかぶって。
イラついてブーツ越しに水たまりをけとばした。
そうなんだ。
自分で言うのもなんだけど、私は単純なんだ。
どんなに激しいバトルのあとでも、ごはんを見てるあいだに元気になってくる。
それが今日は、気が重いままだよ。
大体、安菜のせいで。
はーちゃんから安菜を引き離すと爆発する。みたいなワナはなかった。
ゲコンツ星で取り調べてくれたから。
そもそも、こん棒エンジェルスは外部に協力を求めたりしなかったらしい。
軍や警察にファンが多いと言ってたのに。
だけど、まだ安菜を帰すことはできない。
この辺りは、石川県で最大の都市圏に通じる。
広大な森にも接してる。
こん棒エンジェルスが隠れる場所は、いくらでもありそう。
今も遠くで、重いモータ音やロボットの足音が聞こえる。
ヘリコプターの飛行音も。
捜索が続いてるんだ。
その間はすべての装備を使わなくちゃいけない。
つまり、帰りの手段が、ない。
それでも、なるべく早く、優しく帰さなきゃ。
川の近くまで戻ってきた。
空には九尾 九尾さんの霧のスクリーン。
異能の力で拡大された、今日の戦闘を映したスマホ画面。
「そう言えば、九尾 クオさんの放送。
音、なくなっちゃったね」
安菜の当然の質問。
その答えは知らないけど。
「ああ、音も流すと戦いが再開したと勘違いしてしまう人がいるかも」
「なるぼど」
ボルタへの車列は、まだ動いてないよ。
まだ、ゲコンツ星での確保がすんでないのかな。
「遅いっての! 」
安菜がキレた。
車列は、黒い魔法炎の塊、エニシング・キュア・キャプチャーを運ぶ。
あれ。中が見えるキャプチャーがある。
破滅の鎧も脱がされ、黒いスーツだけになった女性が浮かんでいた。
全身は、手足をだらんと下ろした姿で固定されてる。
でも顔だけは自由みたい。
怨みを込めた表情のまま、私たちをにらみつづけてる。
キャプチャーの色が薄いのは、使いすぎたのかな?
そして運んでるのは、軽トラック。
緑色と茶色のツヤのない迷彩柄の。
ロープで縛られた、その姿。
粗大ゴミと変わらないね。
と思ったら、安菜はドカドカと近づいていった。
そして、「イー!! 」
噛みしめた歯を見せつけた。
やれやれ。
早く道わたろう。
ウイークエンダーはポルタから離されて止めている。
河川敷で、食事をする順番に後ろに下がって。
堤防を上ろう。
その時、スマホがなった。
相手は、九尾 朱墨?
『もしもし。いま大丈夫ですか? 』
大丈夫だよ。
何かあったの?
『うちの宇潮 心晴さん、アナライズ担当に、あなたから要求が来たんです』
ああ、キャバレーハテノのときだ。
デモの様子を笑いながらタブレットで撮ってた女性だね。
ということは、これはハンターキラー同士の情報安全のための規約どおりだ。
でも。
「え?
どんな要望? 」
『ゲコンツ星から、閻魔 文華が逃げた可能性のある行き先を、可能な限り調べてほしいって』
そう話すあいだに、朱墨ちゃんが青ざめてくのがわかる。
「そんな要望、してないよ!
そっちは、何かしたの? 」
『いいえ。
宇潮さんが言うには、ゲコンツ星と言うのがどこにあるのか分からないから、予想はできないそうです』
そう。
それなら良かった・・・・・・と思いかけてやめた。
『だけど、計算そのものは、簡単だそうです。
そしてその事は、ニセうさぎ? さんに聴かれてると思います』
・・・・・・マズイ気がしてきた。
「ねえ。うさぎ」
安菜がふりむいた。
私の不安が伝わったのかな。
「ウイークエンダーが何か狙ってる! 」
ちがった。