俺と女神と
そうと決まればさっそく出発しなければと思い準備に取り掛かる事にしたのだ。
と言っても大した物は用意できないため必要最低限のものだけをバッグに詰め込んでいくとそれを背負い、
武器を手にするだけで終わったために直ぐに出発することに決めたのだった。
しかし、この時はまだ知らなかったのだ。
この後待ち受ける過酷な運命のことを、
(さて、これからどうしようかな)
そう考えながら歩いていたその時だった。
背後から声をかけられた気がして振り返ってみるとそこには、あの少年の姿があったではないか、
彼は俺に声をかけてきた後、一緒に付いていくと言い出したのだが断ろうとしたものの押し切られてしまった結果、
共に行動する羽目になってしまい、気まずい空気が流れ始めることになったのだが、それでも諦めるつもりはないようだった。
為に諦める他なかったのであった。
そうしてしばらく歩いている内に目的の場所に到着した俺たちは、周囲を警戒しながら進んでいくことにしたのだが、
不意に違和感を感じたため立ち止まって様子を伺うことにしてみたところ、
やはりおかしいと思ったのだが、その理由に気づくことが出来たため内心ホッとしながら安心することが出来たのである。
(危なかったわ、もう少し気づくのが遅かったら今頃大変なことになっていたかもしれないものね)
そう思いながら安堵した次の瞬間、足元から突き上げられるような衝撃に襲われたことで体勢を崩してしまった。
俺は、そのまま前のめりに倒れそうになるところを咄嗟に腕を引っ張られることで支えられたことで助かったものの、
未だに続く揺れによって身動きが取れずにいる状態だったためにどうすることも出来ずにいると、
今度は大きな爆発音が聞こえてきたと同時に衝撃波に襲われることとなったことで、
その場に立っていることすらままならない状態になりつつあったところで、ついに限界を迎えてしまうことになってしまったのである。
それによって意識を失ってしまった俺だったのだが、暫くの間気を失っていたらしく目を覚ました際には見知らぬ場所にいることに気付き
愕然としていたところに声を掛けられたことによって我に返ったというわけである。
そこで初めて声の主に気付いた俺は驚きのあまり言葉を発することが出来なかったのだが、
それも無理のないことだろうと言えるだろう。
何故なら、そこに立っていた人物は紛れもなく俺自身だったからだからだ。
そう認識した瞬間頭の中が真っ白になってしまい、何も考えることが出来なくなってしまったのだが、
そんな俺を他所に彼女は淡々とした口調で話しかけてきたのだった。
「初めましてと言うべきかな、それとも久しぶりと言った方がいいのかな? まあ、どっちでもいいけどさ、取り敢えず話をしようか」
そういって近づいてくる彼女に対して身構えようとするものの思うように身体が動かず、
それどころか逆に力が抜けていくような感覚を覚えるとともに意識が遠のいていきそうになった時に、
耳元で囁かれた言葉が脳内に響き渡るようにして聞こえてくると、途端に思考がクリアになっていったことから冷静さを取り戻すことが
出来たので安堵の息を吐いたところで改めて目の前の人物を観察することにした。
「うふふ、どうかしら? 驚いたでしょう?」
そう言って楽しそうに笑う姿に若干イラッとしながらも、努めて冷静に振る舞うことで誤魔化した後で質問を投げかけてみたところ、
意外な答えが返ってきた事に驚かされることになった。
曰く、今のあなたは本当のあなたではなく、今こうして話をしている俺も本物の自分ではないらしいとのことだが、
いまいち意味が分からないというか理解できないといった反応を見せるしかなかった俺に対して彼女は更に続けた。
「つまりね、こういうことなのよ」
と言いながら両手を広げた直後、その姿が変貌していく様を目の当たりにした俺は驚愕せざるを得なかったのだ。
なんと彼女の姿が変わっていくにつれて、服装までも変化していっただけでなく、口調や声色まで変わっていることに気づいたからである。
「ふふ、びっくりしたでしょ?」
そう言いながらウインクしてきた彼女に対して呆気に取られながらも何とか頷くと、
満足そうに頷いてみせた彼女は再び口を開いたかと思うと驚くべき事を言ってきたのである。
「それじゃあ本題に入ろうか、私がこうして現れた理由だけどね、
それはあなたに伝えたいことがあったからなの」
その言葉を聞いた瞬間嫌な予感を覚えたのだが時すでに遅しといったところだろうか、
気付いた時には既に手遅れとなっていたようだからね。
どういうことかというとだな、
簡潔にまとめてしまえばこうだとも言えるだろう。
「君は私の世界に転生することになったんだよ」
そう言われた瞬間背筋が凍り付くのを感じた俺は反射的に後退ろうとするも、
素早く距離を詰められてしまうことになったため逃げられなくなってしまう羽目になった上に両腕を掴まれてしまい逃げることも出来なくなって
しまい絶望的な気分に陥っていたのだが、そんな事などお構いなしとばかりに話を続けられてしまったので諦めるしかなかったようであるが、
それにしても気になる点が幾つかあるような気がしてならなかったために尋ねてみる事にしたんだ。
まず一つ目は、どうして俺が選ばれたのかという点についてなのだが、
これについては単純な話でたまたま目についたという理由以外に何もなかったようで落胆するしかなかったわけだが、
次に気になってしまった点は、何故わざわざ呼び出したのだろうかという点についてである。
それについて聞いてみる事にしたんだ。
「それは簡単なことだとも、君には私の代わりに世界を救ってもらいたいと思ってね、その為に必要な能力を与えてあげようと思っているわけだよ、
具体的にはそうだ、君が持っている力をより強くしてあげたり、身体能力を上げたり、他にも色々と用意してあるんだけど何か要望はあるかな?」
と言ってきたので、それならと思い、一つだけお願いしてみる事にしたんだ。
「ふむ、なるほど、そういうことならばいいだろう、但し、その代わりといっては何だが、条件があるぞ、それでも構わないかね?」
と聞かれたため、迷いなく頷いた後でその内容を尋ねてみたところ、
どうやら勇者召喚に巻き込まれてこの世界に飛ばされてきたという設定で行動して欲しいということだった為、
特に断る理由もなかったので承諾することにしたわけである。
その後、彼女に言われるままに魔法陣の上で祈りを捧げていると次第に意識が遠のいていったと思ったら次の瞬間には森の中に倒れていたんだ。
辺りを見回してみると、すぐ近くに町が見えるのが見えたんだが、まずは状況を把握する為に情報収集を行うことにしたんだよ。
それからしばらくの間探索を続けているうちに分かった事があるんだ。
まず第一にここは地球ではないという事なんだが、その根拠として一番大きなものは空に浮かんでいる二つの月だろうな、
しかも両方とも赤い色をしていることから判断できると思うんだが、 その他にも大気中の成分とか重力の違いとか様々な要素が挙げられると思うわけだが、
最も大きな要因となったのは、この町の住民達が使っている言語にあると言えようと思われるな、
というのも、さっきから聞こえてくる会話の内容が全く理解出来なかったりするわけだし、
そもそも看板などに書かれている文字を読むことすら出来ないんだからこれはもう確定と言っても過言ではないだろうと思う。
というわけで早速冒険者ギルドに行くことにすることにしよう。
(おや、また来たのかい? 懲りないねぇ、まあ、別にいいんだけど、どうせ何も変わらないだろうしさ)
「いいえ、そんなことありませんよ? こう見えて俺、強いんですから」
そう答えると同時に、懐から取り出した短剣を構えて臨戦態勢に入った俺を見て、
目の前の男は一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐにニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらこちらを眺めていましたが、
やがて堪えきれなくなったかのように噴き出したかと思えば大声で笑い始めてしまいました。
その様子を見ていた他の冒険者達も何事かとざわつき始めたのですが、
そんな中で一人だけ平然としている人がいたので気になって見ているとその人は俺の顔を見るなりニッコリと微笑んでくれたんです。
その瞬間、俺の胸は高鳴りを覚えてしまい、それと同時にこの人なら俺のことを理解してくれるかもしれない
という期待感が芽生えてきました。
「あの、俺と一緒にパーティーを組んでくれませんか!?」
勇気を出してそう告げると彼女は快く受け入れてくれたばかりか、 その場で握手を交わしてくれました。
その時の喜びと言ったら言葉に表せないほどのものでした。
こうして俺は念願のパーティーメンバーを手に入れることが出来たのです。