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どーゆう顔?「はひ?」
「良い顔で人に笑いかけちゃダメ」早坂さんが頬から手を離し、つねった所をさする。
「どーゆう事ですか」
「笑うのはあたしの前だけにして」
──これは、どう取ればいい。意味深にも程があるだろう。早坂さんの真意はわからない。
「・・・なんで?」
「ん?見せたくないから」
「・・・なんで?」
「あ、同性は別よ?あなたは笑顔が素敵だからたくさん笑いなさい」
答えになっていないし、言ってる事が支離滅裂なんだが。
ある言葉が、喉まで出かかった。
"わたしの事、どう思ってますか?"
それを聞いた先は、どうなるだろう。早坂さんはどんな反応をする?困るだろうか。それとも、いつものノリでかわされる?
臆病なわたしは、それを知る勇気がない。だから、喉まで出かかったその言葉を抑え込んだ。
それから3日後の朝。
窓をコツコツと叩く音で目が覚めた。すぐに空舞さんだとわかった。寝ぼけ気味で慌てて窓を開ける。
「相変わらず、寝坊助ね」
部屋の時計は6時ピッタリだ。空舞さんは、部屋の中に入って来ない。
「空舞さん、優子さんは・・・」目が覚めたら、知らせに来てくれるという約束だ。
「優子は、亡くなったわ」
「・・・え・・・いつ・・・」
「昨日の夕方よ。あなたにも知らせるべきだと思って」
「そう・・・ですか・・・」余命宣告を受けていたのはわかっていたとはいえ、亡くなったと聞かされると、さすがにショックだ。
「ありがとう。もう1度、お礼が言いたかったの」
空舞さんは手すりに止まり、川のほうを見ている。わたしなんかより何倍も悲しいに決まってるのに、その声は気丈だ。
わたしは裸足のままベランダに出て、空舞さんを強引に抱きしめた。
「ちょっ・・・と、何よ」
「優子さん頑張りました。空舞さんも、頑張りました」
空舞さんはふっと笑った。「よく知りもしないくせに。わたしは平気よ。ずっと、覚悟はしてたから」
「はい」
「それより、離してくれない?暑苦しくてしょうがないわ」
「あ、はい」