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子供はおかしそうにキャッキャと笑い、母親がギョッとしてまたこちらを振り向く。
わたしは咄嗟に、いないいないばあーをやって見せた。子供はわたしの事など見てもいなかったが、勘違いしてくれた母親が笑い、ホッとする。
そうこうしているうちに6階へ到着し、母親ははわたしに軽く会釈をしてエレベーターを降りた。
ドアが閉まり、「・・・何やってるんですか」
「見えてるか確認したのよ」
「確実に見えてましたよね。ビックリした・・・まだ喋れない子で助かった・・・」
「まあ、子供はよくあるわ」
「え?」
「着いたわよ」
「あ、はい」
エレベーターを降りると、左側が広い待合室になっていて、私服姿の若い女性が2人、椅子に座り携帯をいじっていた。誰かの手術待ちとかかな。勝手にそんな雰囲気に感じた。
空舞さんの案内で病室へと向かう。
「ここよ」
703号室。ネームプレートは、間宮 優子という名前が1つだけ。部屋のドアは開けっ放しになっている。
空舞さんはわたしの肩から飛び、彼女のいるベッドのフットボードへ降り立った。わたしも続いて中に入る。
「失礼します」
部屋自体は広くないが、個室だ。何も物が置かれていない分、殺風景に見える。
ベッドに横たわる彼女を一目見て、思わず足が止まった。
とても、若い。わたしと同じくらいだろうか。
真っ白な顔で眠る彼女の鼻からは酸素が繋がれている。
「驚いたでしょ。歳は言ってなかったものね」
「・・・はい。正直、こんなに若い人だとは思ってませんでした・・・」
彼女の顔が見えるよう、ベッドサイドに移動する。近くで見る彼女は、とても綺麗な顔をしていた。長いまつ毛に、高い鼻、形の良い唇。きっと、誰が見ても美人と思うだろう。
「優子はね、祖母がフランス人なの。前に写真を見せてもらったけど、とても綺麗な人だったわ」
空舞さんの話を聞いて納得した。「クォーターって事ですね。どうりで、凄い美人なわけだ」
「今は見えないけど、瞳も透き通った琥珀色なのよ」
想像だけで、彼女に見惚れてしまう。「早く、見たいです」
「・・・そうね」