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病院までは地下鉄で2駅だが、時間も早いし天気も良いということで、徒歩で向かう事にした。移動中、空舞さんはわたしの肩と空を交互に移動していた。大空を自由に飛ぶ空舞さんを眺めていると、嫉妬心が沸々と湧いてくる。
「どんな感じですか?空を飛ぶのって」
「・・・どんな感じ?」
「気持ちいいですか?」
「・・・優子と同じ事を言うのね。あなたそれ、地面を歩くのってどんな感じ?って聞かれるのと同じ事よ?わたしにとっては当たり前の事だわ」
「まあ、そうなんですけど・・・ちょっと、羨ましいです」
「人間にも空を飛ぶ乗り物があるじゃない」
「・・・飛行機?あれは、飛んでるのは機体ですからね」
「なにか違うの?」
「まったく意味が違います。こう、風を感じたいというか」
「風ね・・・遊園地にもあるじゃない」
「・・・ジェットコースターとも違うんですね」
「ああ、あれがあるじゃない。人間がやる、くだらない遊び」
「ん?なんですか?」
「身体に紐をつけて飛び降りる、馬鹿馬鹿しいやつよ」
「バンジー!あー、なるほど・・・それが1番近いかも」
「やりたいの?」
「今、やりたくなりました」
鼻で笑われた気がするが、気のせいと思う事にする。
病院には8時30分前に到着したが、待合ホールにはすでにたくさんの人がいた。大きな病院って、待ち時間で疲れるんだよな。
前に母親の付き添いで来た事があるが、病院を出るまでに4時間ほどかかった記憶がある。
エレベーターへ向かうと、ちょうどドアが開くのが見えた。小走りで駆け寄り、小さな子供を抱いた女性の後に続いて乗り込む。
女性は6階を押し、わたしは7階を押す。
後ろへ移動すると、子供と目が合い、手を振る。子供は手を振り返すかわりに、わたしを指さした。
「あっ、あー」
── えっ・・・。子供の目線と指さす方向で、わかった。この子が見ているのは、わたしじゃない。
わたしの肩にいる、空舞さんだ。
「あーっ、あー」目をキラキラと輝かせ、空舞さんに手を述べる。
すると母親が気付き、こちらを振り向いた。
「こら、やめなさい」子供の手を取り、申し訳なさそうにわたしに頭を下げた。「すみません」
「いえいえ」
それでも、その子供は空舞さんから目を離さなかった。すると何を思ったか、空舞さんが突然翼をはためかせた。
えええええ・・・。