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「後を追ったのよ。あなたの家もわかってるわ」
つまり、つけられたって事か。
「それであの、どういったご用で・・・」
カラスは、黙り込んだ。当たり前だが、鳥の表情なんてわからない。頭が下を向いているのは、感情の表れか?
「あなたに、お願いがあって来ました」
「お願い・・・なんでしょう」
と、その時、笑い声を上げながら若い女性2人組がこちらへ歩いて来た。
「あの、場所変えてもいいですか?」このままだと、地面に向かって独り言を言う変な女に見られてしまう。
「ええ。あなた、これから家に帰るのかしら?」
「あ、はい。地下鉄で」
「では、先に家で待ってるわ」
「えっ」そう言うと、カラスは翼を羽ばたかせ、あっという間に夜の空へ消えていった。
わたしは、しばらくその場で呆然としていた。
一体、何が起きてるんだ。
ポケットから携帯を取り出す。連絡、したほうがいいかな。早坂さんの事だから、すぐにでも飛んで来そうだ。でも、カラスはわたしの家で待ってるって言ってたし、この流れで行ったら早坂さんも家に来る事になるのでは?
携帯をポケットに戻した。
まずは、あのカラスの話を聞いてからにしよう。危ない感じはしなかったし、わたし1人でも大丈夫だろう。たぶん。
アパートの階段の下で1度、辺りを探した。
先に家で待ってるって、何処で待ってるんだろう。部屋をわかってるんだろうか。
緊張しながら部屋に入り、電気をつけた。中に入れるはずはないから、だとすると・・・カーテンのレースを開けた。──当たりだ。
暗闇に紛れ、ベランダの手すりにとまっている。部屋、わかってたのね。
とりあえず、窓を開ける。「入ってもいいかしら?」
「あ、はい」
カラスは、わたしの頭上を飛び越え、テーブルへ着地した。
部屋に鳥を招き入れたのは、初めてだ。
窓を閉め、わたしもソファーに座る。
「・・・あの、何か飲み物でも・・・」
「要らないわ。ありがとう」
「・・・はい」
テーブルに佇むカラス。それに向き合い、ソファーに正座するわたし。不思議な光景以外の何者でもない。
「では、さっきの続きをしてもいいかしら」
「はい、どうぞ」