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「わたしが見えますか」
──辺りを、キョロキョロ見回した。今、誰か喋ったよね。
「ここです」
──ん?また、見回す。しかし、誰もいない。でも、声は近くからした。
「意外と鈍いのね。わたしです。目の前にいるでしょう」
「目の前・・・?」って、目の前にはこのカラスしか──「え"っ・・・」
「そう。わたしです」
今、声と共にクチバシが動いた。
「ッ・・・ええええええええ!!・・・カッ、カラスが喋った!」
「やはり、あなたはわたしが見えるのね」
──落ち着け、わたし。今までいろんな妖怪を見てきたじゃないか。たかがカラスが喋ったくらいで・・・驚愕だ。
「何をそんなに驚かれているの?わたしのようなものを見るのは初めてではないでしょう?」
「・・・や、そうなんですが・・・喋る鳥は初めてで・・・」
「喋る鳥、ね。まあいいわ。わたしを覚えてる?」
「え?覚えてる?・・・何処かでお会いしました?」
カラスは、わたしにもわかるようにこうべを垂れた。「本当に鈍いのね。今日、お会いしたのを忘れているのかしら」
「・・・今日?・・・えと、何処で?」
そもそも、カラスに会った記憶なんてあるわけがない。そこら辺になんぼでもいるじゃないか。
「はあ・・・"あなたの家"の近くを流れる川。そう言えばわかるかしら?」
鳥に溜め息を吐かれるって、若干癪に障る。
「わたしの家の近くの川・・・?」
今日の記憶を辿る。
起きて、ご飯を食べて、天気が良いから走りに行って、帰りに河原のベンチで缶コーヒーを飲んで ──・・・「あっ・・・」
そうだ、あの時、コーヒーを飲んでたら隣のベンチにカラスが飛んできて、逃げないから人慣れしてるなって思ったんだ。
「あの、カラス・・・?」
「指を差さないでちょうだい。噛み付きたくなるの」
「あ、すみません」
「あなた、あの時わたしに話しかけたでしょう」
「・・・はて?話しかけた?」
「ええ、やっほーって」
「・・・ああ、そういえば、そんなような」
傍から見たら、結構危ない人では?
「・・・嬉しかったわ。また、わたしの事が見える人に出会えて」
「はあ・・・あれ、でも、どうやってここを?」